【グラミー賞】ファレル、ビヨンセ…大物たちが同じジェスチャーで発した主張とは?
日本時間2月9日にロサンゼルスのステイプルズ・センターで開催された第57回グラミー授賞式。今回の授賞式においては、賞の行方のみならず、壇上で行われた数々の“主張”が注目された。
日本でも即座に話題になったのが、「アルバム・オブ・ジ・イヤー」のプレゼンターとして登壇したプリンスの短いスピーチ。プリンスは、最優秀アルバムを発表するにあたり、最初に「アルバムってみんな覚えてる?」と一言。ダウンロード配信の普及により、アルバム全体ではなく1曲1曲で購入する音楽の消費スタイルが定着していることに皮肉を込めた。
“主張”の色合いが濃くなるのはこの後だ。スピーチは、「Albums still matter. Albums, like books and black lives, still matter.(本や黒人の命と同じように、アルバムはいまも大事なものだ)」と続いた。なぜ本と一緒に“黒人の命”が言葉の中に並べられたのか? 今回のグラミー賞では、この「黒人の命も大事だ」(Black Lives Matter)という“主張”が印象的だった。
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最も強く主張したのは、日本も含め世界中で人気の楽曲『Happy』のパフォーマンスでステージに立ったファレル・ウィリアムスだ。
『Happy』は、その題名の通り、イントロからアウトロまで終始明るい1曲だ。しかし、今回のグラミー賞でのパフォーマンスは、暗い照明のなかファレルによる「いまから言うことはおかしく聞こえるかもしれない」という一人語りからスタート。明るいイントロはマイナー調へと変貌し、フードをかぶった黒いパーカーのダンサーたちが登場する。
これについて、音楽評論家の吉岡正晴氏はブログの中で、
「まさに今アメリカのブラック界で広がりつつある『Black Lives Matter(黒人の命も大事なんだ、黒人の生命問題)』運動を象徴するファッション」
と解説。さらに、
「武器を持たない無抵抗の一般の黒人が相次いで殺されたことから起こり始めた動きで、ダンサーたちが両手を挙げてフリーズしている姿は、まさにこの運動を現している」
と続けている。
※画像は、YouTube「Pharrell Williams – Happy(57th GRAMMYs)」のスクリーンショットです
2014年、アメリカ国内では、無抵抗・無防備の黒人男性が白人警官によって死に至らしめられる事件が相次いだ。また2012年2月、フロリダ州サンフォードにおいては、17歳のトレイボン・マーティンという黒人少年が自警団を名乗る28歳のヒスパニックの若者に射殺される事件が起きている。
若者が「スタンド・ユア・グラウンド法(正当防衛法)」により無罪判決を受けたことで大きな抗議運動が起きたこのトレイボン・マーティン事件。マーティン君が事件に巻き込まれたきっかけは、「フードをかぶっていた」ことだった。そして、手を上げるジェスチャー「Hands Up Don’t Shoot」は、2014年に起きた抗議運動の中で有名になったものだ。
ファレルは、ハッピーソングの曲調を変えてまで、パフォーマンスの中にメッセージ性を取り入れたというわけである。
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そして「Hands Up Don’t Shoot」のジェスチャーは、ビヨンセのパフォーマンスの中でも使われた。
※画像は、YouTube「Beyoncé – Take My Hand. Precious Lord(57th GRAMMYs)」のスクリーンショットです
ビヨンセが歌ったゴスペルソング『Take My Hand. Precious Lord』は、吉岡氏によれば、「黒人運動の父、マーティン・ルーサー・キング牧師が好んでいた曲」だという。
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冒頭で紹介したプリンスのスピーチは、皮肉を込めた音楽文化の未来への危惧というだけでなく、この「Black Lives Matter」運動への敬意も含めていたというわけだ。
グラミー授賞式の後、アメリカのネット上では彼らアーティストが発したメッセージが広く拡散。「#Handsupdontshoot」や「#Blacklivesmatter」といったハッシュタグで多くの人が人種の問題について声を発している。
(文/しらべぇ編集部)