代理母出産についてタイ人はどう考えてるのか? 現地からレポート
タイでの現地取材です。
こんにちは。しらべぇ海外支部のhirokoです。
24歳の日本人男性がタイで代理母に14人もの子供を産ませたという、センセーショナルなニュースが日本で大きく報道されていますね。ネットの情報では、子供の人数はさらに21人に増え、卵子提供者の国籍がスペインをはじめ多岐に渡るなど、謎は深まるばかりです。
さて、その舞台となったタイ在住の筆者は、通訳の力を借りて現地で調べてみました。
まず、タイの新聞に最初に出た大きな見出しはこうです。
「日本人が子どもをたくさん産ませた!」
「何のためでしょうか?」
「何故タイ国外に連れ出したのでしょう?」
日本の報道との若干の温度差、内容の違いに気づいていただけたでしょうか?
そう、ここタイでは、代理母出産についての法律はないため、認められているというニュアンスで理解されています。違法ではないのだから、悪いことではないという見解のようです。
そこで筆者は、タイ人の「代理母出産」に対する認識について調べてみました。
最初に、タイ人弁護士ユウさん(男性、24歳)に話を聞く事が出来ました。
「タイでは、代理母出産は普通のことです。不妊や母体が弱いなどの理由で、他の女性の子宮で妊娠出産まで、というのは違法ではありません」と答えてくれました。
さらに、「タイの法律では、卵子提供者は母ではなく、実際に出産した人が子供の母である」とも。タイ人女性が産めば、別の国の男女間の受精卵であっても、母親はタイ人女性となり、タイ国籍が取れるそうです。
また、人身売買は法律で禁じられていますが、田舎など貧しい地域においては、育てられない等の理由による養子制度はあるとした上で、「育てられる人が誰かに子供を売る」というのは法律の想定外の為、何の罰則も決められていないそうです。「タイ人はこのニュースを、興味を持ってたとしても問題視はしない。人数に驚いているのみ」と言っていたのが印象的でした。
画像をもっと見る
■代理母出産をどう思いますか?
次に、この質問を20代~30代の男女にしたところ、代理母に対する意見は真っ二つに分かれました。
【賛成派】
・元看護士(女性、30歳)
「代理母出産は決して珍しい事ではないし、それについて何も感じない。善悪など考えたことはない」という、日本人の観点からしたらなんともドライな回答。さらに、代理母の報酬について、診察代・薬代・交通費の実費プラス20万~30万バーツ(約60万円~100万円)が相場だと教えてくれました。
・旅行会社勤務(男性、30歳)
「よくわからない」としながらも、「子供が欲しい人は、病院に相談に行けば試験管ベビーが買える」と答えてくれました。個人間でも、 話がつけば代理母出産の依頼は可能な事だと笑顔で話していました。
タイには、子宮を貸すことで報酬を得る「代理母」が職業として当たり前のように存在するのか? と、妊娠出産を軽んじられたような、なんともいえない少し重い気持ちになりました。しかし、これも日本人の価値観ですね。
また相場についても、「そもそもお金に換算する事など出来ないのでは?と」考える筆者ですが、母体の命の危険に関わる事もある妊娠出産に対する金額にしては、安すぎるのではないかと感じてしまいました。
【反対派】
・Kさん(25歳)、エンさん(23歳)、ゲムさん(22歳)の3人は、ほぼ同じ意見の持ち主。タイの代理母出産は、身内か親族間でのみが大原則。その際も、女性が妊娠出産ができない理由がある場合に限る、とそれぞれに話してくれました。
「貴方がもし、代理母を頼まれたらどうしますか?」という質問に対しては、身内か親族ならOKで、その際金銭は発生しない。知人や知らない人で報酬と引き換えに代理母になる、というのは、倫理的にも心情的にも絶対にダメだと語っていました。
この両者の回答の違いはどこからくるのでしょうか? さらに質問を投げかけてみました。
「報酬を得る為に、代理母になる女性をどう思いますか?」
代理母に関してはどうとも思わない。子供がかわいそう。仕事として選ぶのは、他にお金を稼ぐ道がない人…。このような回答でした。
なるほど、ここで見えてきたのは、タイの貧富の差です。大学生や大卒OL達のように、学歴や教養を持つ比較的豊かな人たちは代理母反対派で、「自ら職にはしない」ということでした。ただ、それを日々の糧にする人に対しても、どうとも思わない。
そこにある現実は、タイのセックス産業にある流れと同じ構図のようです。タイのセックスワーカーの出身地で多いのが、北部と東北部だという統計があります。この辺りの人たちは、貧しいが故に出稼ぎにバンコクへ来るのです。
関連記事:タイの不可思議な道路事情を地図で調査!運次第、罰ゲームのような構造とは?
■考察
相続税のないタイでは、産まれながらにして資産家であれば、その子孫はその財産をそのまま受け継ぐことになり、どこまでも資産を増やせます。一方、貧しい家に産まれた子供は、その命までもがお金と引き換えになるほどに貧しいままの世代が続くといいます。
日本の報道では、相続税を逃れる為の代理母と子供の利用となっているようですが、真相はわかりませんね。そして、豊かなものがより豊かになるために、貧しいものをお金で何とかするという構図。「国民性や国のあり方の違い」と言ってしまうには、やりきれない思いの残る、厳しく哀しい現実がそこにありました。
例えどんな状況で産まれたにせよ、子供たちには健やかに成長して欲しい、最後にそう願わずにはいられませんでした。
(文/しらべぇ編集部・Sirabee編集部)