AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論
昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。
AV実演家の人権を守る一般社団法人『表現者ネットワークAVAN』を立ち上げた、元女優で作家の川奈まり子氏。
この連載は、川奈氏が、性表現や女性の人権などについての専門家との対談を通して、AVや日本の性が抱える問題点に光を当てる対談企画だ。
3回目となる今回の対談相手は、ジェンダーやセクシュアリティを専門とする社会学者で、神戸大学教授の青山薫先生。
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■AVANのアドバイザリーボードにも参加
青山:私は、会社員などをしていて、研究者になったのは15年ほど前ですが、修士論文から売買春の問題について書いていました。以来、国境を越えて移住する人たちや、セックスワーカーのように社会的に排除されてしまう立場に関心を持って研究をしています。
川奈:私が最初、青山先生を知ったのは、アムネスティがセックスワークについて行った発表に対する発言を見たから。
「AV出演者もセックスワーカーのように横の連帯を持たないとまずい」と思って、その後AVANを立ち上げるときにアドバイザリーボードに入っていただきました。
青山:ふだんは関西にいるから、なかなか参加できなくて。
川奈:関西といえば、先日、京都新聞に取材されたときに、「大阪や神戸にはAV制作会社があるようだが、京都にはないようだ」と聞きました。
IPPAに加盟して倫理審査団体に審査を受けているメーカーが約270社あるのですが、その9割以上が東京に集中しているようです。 IPPAに加盟していないメーカーは、私たちには補足できません。
警察が「3号ポルノ」と呼ぶいわゆる「着エロ」や、先日逮捕者が出たカリビアンコムのような海外配信サイトに作品を提供している企業は、IPPAに加盟しておらず、業界側から見ると仲間でも何でもなく、基本的に繋がりがないので、一緒くたにして叩かれるのはAV業界側では理不尽に感じています。
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■「強要」という言葉による誤解も
青山:今回のヒューマンライツ・ナウ(HRN)の「AV出演強要」についての報告書で問題のきっかけとされている業者は、IPPAに入っていた?
川奈:あの報告書には、5W1Hが入っていないので、よくわかりません。ただ、高額な違約金を求められて訴訟になり、話題となった女優さんは、IPPA加盟メーカーの作品ばかり300本くらい出演していました。
芸歴も長く、だからこそおよそ300本も出演していた、そのすべてが「出演強要」だとされたことに、AV業界側の、ことに件の女優さんを知っている人々は違和感を覚えてしまったようです。 「嫌がることを無理にやらせたことはないのに」 「殴りつけてレイプしたわけじゃないじゃないか」 「撮影現場ではいつもノリノリだったじゃないか」 と、彼女と一緒に働いたことがある制作関係者や共演者を中心に、業界側には不満を溜めて反発を口にする人々が増えてしまったのです。
でも、暴力やレイプが存在していなくても、AV出演強要は成立しうるわけですよね。 「強要」と聞くと暴力とレイプを思い浮かべるのは、業界人に限ったことではないと思いますが、出演「強要」という言葉のせいで、業界側に誤解と反発が生じてしまい、もう少し簡単に片付くはずの問題が複雑化した面があります。
最近では、「出演強要」と言っても、強要罪や強制わいせつ罪が適用されるような暴力的なケースはむしろ少なく、甘言で騙すなどしてAVに出演するように仕向けたり、引退したいのに違約金で縛りつけるなどしてAV女優を辞めさせなかったりすることを「出演強要」と呼ぶのだ、と、業界側でもようやっと理解が進んできました。