自衛隊が孕む課題と「PMC」の可能性 民間軍事会社が担うべき役割とは
自衛隊をめぐるさまざまな問題を受け、政府や他の組織と契約を結んで軍事的なサービスを提供する「PMC(民間軍事会社)」の重要性が浮き彫りになっている。
自衛隊の銃乱射事件や銃を保持したままの行方不明事件、元自衛官の五ノ井里奈さんが被害を受けた性暴力は、軍事組織における運営や倫理の重要性を再認識させる出来事である。
これに関連して、PMC(Private Military Company)の重要性が浮き彫りになってきたのではないか。元陸自幹部の筆者が明らかにする。
■PMCの概要と有名な会社の実績
PMCは民間軍事会社の略称であり、政府や他の組織と契約を結んで軍事的なサービスを提供する会社である。日本においては、PMCという形態は存在していないが、セキュリティ企業や軍事関連企業が一部PMCの機能を担っている。
有名な国際的なPMC企業としては、アカデミ(Academi、旧ブラックウォーター)、G4S、アイロンヘアー(Ironhead Security)などがあり、どれも軍の特殊部隊並みの専門的知識や技術を保有している。
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■自衛隊とPMCの違い
自衛隊とPMCは、それぞれ所属と指揮系統が違う。自衛隊は日本国の防衛を担う組織であり、国家の管理・指導の下で運用される。
指揮系統は国家によって確立され、隊員たちは公務員としての地位にある。一方PMCは民間企業であり、国家による直接的な指揮下にはなく、彼らは契約に基づき、顧客からの指示に従って行動している。
また、目的と法的地位が異なる。自衛隊の目的は、国家の防衛と国内の安全を確保すること。自衛隊は法的に国家によって設立・運営されており、法律に基づいて活動することが前提である。
反対にPMCは主に商業的な目的で活動し、契約によってサービスを提供する。彼らの法的地位は国によって異なる場合がある。
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■PMCのメリットとは
メリットは即ち、柔軟性と迅速性にある。 PMCは民間企業のため、政府の手続きや規制に縛られず、迅速に行動でき、状況に応じて必要な兵力やリソースを素早く提供できる。
また、 専門知識と技能においても差異がある。PMCは特定の軍事的な任務や専門知識を持つ人材を集めている。顧客は特定の任務や状況に応じて適切な専門知識や技能を持つ人材を活用できる。
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■PMCのデメリット
デメリットは、企業の利益追求が出来てしまうことだ。PMCは営利企業であり、利益追求が主な目的となる場合がある。そのため、純粋な国家利益や人道的な観点よりも利益優先の行動が懸念される。
また、モラルと法的な問題も生じる。PMCの行動は、時に国家の法律や国際法に基づいているわけではない。そのため、適切な規制や監督が行われていない場合、倫理的な問題や人権侵害のリスクが生じる可能性がある。
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■PMCを導入する可能性も
日本では完全なPMCは存在せず、その役割の一部はセキュリティ企業や軍事関連企業が担当している。PMCの柔軟性、迅速性、専門知識と技能は大きなメリットであるが、同時に利益追求の可能性と倫理的・法的問題には注意が必要だ。
これらの問題が適切に管理・監督されなければ、倫理的問題や人権侵害のリスクが生じる可能性がある。そのため、PMCの導入は国家の安全保障とのバランスを考慮しながら慎重に検討する必要がある。
自衛隊の近年の不祥事や乱射事件、装備や練度を鑑みるとPMCや自衛隊の特殊部隊の活用が重要視される日が来るのかもしれない。自衛隊が直面する倫理的・法的問題への対策として、PMCの導入が一つの可能性となり得る。
■執筆者プロフィール
安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。
職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。
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(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史)