(2位)東京のうまいとんかつ屋ベスト10【マッキー牧元の世界味しらべぇ】
前回の記事に続いて、東京のうまいとんかつ屋ベスト10シリーズ。今回は2位を発表する。
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2位 浅草「すぎ田」
なんて艶のある姿だろう。磨き抜かれた白木のカウンターに、とんかつの白皿が置かれる。箸をつけずにしばし眺めていたいほど、皿から色気が立ち上っている。細い幅で均等に切られたロースカツは、細かい衣をぴったりと着込み、切り口からは肉汁が輝く肉が見えている。
細く切られたキャベツは、空気を含んでふわりと盛られ、皿の端には一匙の辛子が盛られている。脇には、光輝き、粒が立ったご飯が控え、味噌汁が香ばしさをくゆらせている。奥には、キュウリと白菜、野沢菜のお新香。
これぞ日本の正しき定食である。日本が誇るべき、美しき精神である。一つ一つが丁寧に、誠意をもって作られ、余分な見栄がない。レモンもパセリも、余計な飾りのない姿に、とんかつへの敬意と職人としての矜持が染みている。
初めて訪れたのは20数年前だった。全てに渡る丁寧な仕事に目を丸くしたが、何より感心したのが、とんかつの切りわけ方だった。他店より細い幅に切られるそれは、肉の厚み、肉の幅、質から考え、口に入れた時に最も美味しくなるように切られた幅なのである。
ひと切れひと切れが完成された料理となって、満足させる。そして、次のもうひと切れへ箸を伸ばさせる。豚肉への敬意を感じる切り方は、無駄がなく、押しつけがなく、さらりとして、江戸の粋を感じさせるとんかつだった。
今は先代から受け継いだ息子さんが厨房に立つ。店内の写真を見てもらいたい。なんと清潔感に富む店内だろうか。高温と低温、二つの鍋の前に立つのが二代目である。
さあ、食べよう。歯が当たるとサクサクと軽快に衣は弾け、きめ細かい肉に、ミシッと音を立てるかのように歯が入っていく。ゆっくりと甘い肉の汁が染みだして、脂がするりと溶けていく。ラードのコクをまとった衣と肉を食べる、とんかつならではの幸福がここにはある。
そして素晴らしいのが脇役陣。ご飯は香り高く、何杯も食べたくなってしまうほど、それだけで十分おいしい。ご飯のおいしさでは、「すぎ田」、「ぽん多本家」、「イマカツ」の三軒が、群を抜いている。
そして豚汁は味噌の香り高く、根菜がゴロゴロ入って、豚脂の甘い香りと味噌、根菜の香りが溶け合って、心が温まる。甘くみずみずしいキャベツ、必要最小限にして仕事が行き届いたお新香も素晴らしい。
ソースは独自に調合した甘口や辛口に加えてリーペリンが置かれている。
ソースや塩をかけずともおいしいが、肉の部分やキャベツには、辛口かリーペリンをかけ、脂には辛子と甘口が相性がいいように思う。そして添えた辛子は錬りたてで、ヒリリと辛く、本来の辛しの役目を果たし、肉を盛り立てる。溶き辛子一つにしても、心が入っていることが、この店の良心を表している。
ポークソテーもぜひ。独自の味わいで、ウィスキーの香りと豚の甘味が調和して、ご飯のおかずとしてはもちろん、酒の肴にもなるポークソテーである。
また艶々と光り輝くオムレツもおすすめ。
裏ワザとして、肩ロースより部位でカツを上げてくれることもできる。写真を見てわかるとおり、味が濃いため通常のロースカツより、さらに細く切られている。さすがである。
(文/マッキー牧元)