原発事故から4年、変わらぬ状況は「人災」か…孤立した福島・飯舘村の猫たち
上村雄高さん。職業はカメラマン。もっぱら猫と犬を撮っている。猫の雑誌の仕事に携わるほか、写真展も開催してきた。
まずは上村さんがここ数年で撮影した猫の中から、ある場所で出会った猫の写真をご覧いただこう。
撮影場所は全て福島県飯舘村。原発事故の影響で、震災以前のように自由に暮らせなくなってしまった飯舘村には、およそ200匹の犬、400匹の猫が取り残されている。
他の自治体では、避難場所に犬や猫の同行避難が可能だったのに対し、飯舘村では許可をしなかった。
被災地の犬や猫の保護をしているボランティアの話を聞き、現状を把握しておきたいとの思いで、上村さんは2012年の冬に初めて飯舘村を訪れた。
放射能に強い恐怖心を持っていた上村さん。山を越えて飯舘村に差し掛かると、ガイガーカウンターがひっきりなしに警告音を発し続けた。
上村:怖くなって、すぐ帰りたくなったのを覚えています。自分が行ったからといって何かが変わるわけではないけど、行かないと気がすまないと思いました。
上村さんは、もう少し早いうちから行くべきだったと思ったという。その後も仕事の合間を縫っては定期的に訪れており、訪れた回数は数十回にのぼる。
画像をもっと見る
■1時間かけて飼い猫に会いに行く
飯舘村では、昨年夏より村内の除染作業が本格化した。至るところで放射性廃棄物を詰めた黒い袋を目にするようになった。
放射能レベルは半減したものの、人が住むには程遠い状態だ。 移住のための賠償はなく、村民は避難生活から抜け出せないままでいる。
地域によっては日中は帰宅可能だが、夜は再び避難所などに戻らなければならない。
80歳を過ぎた菅野正三さんは、生業の農業を奪われた上、週に1度スクーターに乗って1時間をかけて飼い猫に餌を与えに戻る。老猫『マメ』に会いに行くのもひと苦労である。
▲『マメ』 背後に並べてあるのはフレコンバック。震災前は菅野さんが大根を栽培していた。
関連記事:【ねこ拝見】仕事を邪魔する姿も愛おしい特集…原田専門家さんの3匹のねこ
■野生動物との戦い
震災以降、ボランティアを中心に猫や犬の保護活動が行われている。飼い猫や犬がいる場所を把握することをはじめ、不妊・去勢手術を進めている。
上村:ボランティアのおかげで、餌場を知っている猫は餌には困りませんが、実は野生動物との戦いがあるんです。
ボランティアは村内20数か所に給餌台を設置したが、2~3kgの餌が一晩で野生動物に食べ尽くされるのも珍しくない。
上村:餌場が高いところにあるのは、タヌキなどの野生動物対策です。
登りにくくしても、ハクビシンなどによって餌が奪われてしまったり、カラスが箱をつついて餌を食べてしまったりして、命を守るための課題となっています。
野生動物も生きていかないといけないため、なんとも、いたしかゆしなところはある。
上村:飼い猫や犬が野生動物に命を奪われるケースが後を絶たず、死と隣り合わせの環境で生き続けることを強いられているんです。
昨年は、野生動物に襲われてお腹を割かれてしまった猫が発見されました。
――飯舘村以外の自治体では犬や猫との同行避難が許されているのに、なぜ飯舘村も同じようにしないんでしょう?
上村:他の自治体は、避難所の一角にペットのためのスペースを設けるなど、対策をとってるんですが、飯舘村がそのようなことをしない理由が分かりません。
ペットを飼っている方からは、当然不満の声は上がっていますが、自治体を動かすまでにはいってないんです。
海外のメディアの反応はシビアで、「飼っていた動物を放置させれば死ぬのはわかっているのに、これでは虐待だ」との見方が多いという。
上村:私も4年間も放置しているのは人災だと思っています。
上村さんは、この先も村の方針が転換されるのは難しいのではないかと肩を落とす。
「かわいそう」と言って見ているだけでは何も変わらないとの思いで、上村さんはこれまでに4匹の猫の里親になり、さらに5匹の猫を保護し里親を探してきた。
▲米太郎。上村さんが保護した5匹のうちの1匹だ。5月から里親の元で暮らしはじめる。
上村:僕にできることには限界はありますが、1匹でも猫の世界が変わればと思って…。本来は飯舘村に取り残されている猫や犬が飼い主と一緒に幸せに暮らせればいいのですが…。
【写真展のお知らせ】
上村さんが撮影した写真60点が、猫写真展『ねこ専』にて展示されます。
日時:2015年4月28日(火)~5月3日(日)/11時~20時※最終日は17時まで。入場料500円。
場所:渋谷『ギャラリールデコ 2階・3階』(渋谷区渋谷3-16-3)
出展者は、上村さんのほか『飛び猫』でおなじみの五十嵐健太さん、ASUHA~明日葉さん、中山祥代さん、佐藤由美さん、前田悟志さんほか。上村さんのブログ『猫撮る』はこちら。
(取材・文/やきそばかおる 写真協力/上村雄高)