ひたすら美しい少年たちの世界!長野まゆみ文学の魅力【芥川奈於の「いまさら文学」】

2015/10/16 17:00


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多くの小説家たちが、脆く壊れやすい少年性・少女時代の物語を書いているなか、最も儚く、それでいて激しく印象を残す少年像を描く女流作家といえば、長野まゆみの右に出るものはいない。

長野は1982年に女子美術大学芸術学部を卒業しており、作品の多くの原点は、その「美」に拘る点、そして稲垣足穂(1900~1977)、宮沢賢治(1896~1933)といった、天体や、耳に届くような風、消えいってしまいそうな人たちが登場する空想的幻想的な作品を書く作家を崇高しているところから始まっているのではないだろうか。

デビュー作『少年アリス』(1989)、『天体議会』(1991)、『学校ともだち』(1992)、『テレヴィジョン・シティ』(1992)、『夏至南風(カーチィベイ)』(1993)、『雨更紗』(1994)などは、少年同士の友情や兄弟愛などを実に美しく、大変儚く、まるで二度と書き直すことのできない筆で絵を描くように仕上げている

『少年アリス』は、学校に忘れ物をした親友の蜜蜂(これは親友の名前である。面白い名前をつけるのも、長野の特徴と言える)に付いていくアリス少年が見た“夜の学校の不思議な世界”が描かれた物語。

真っ暗な学校で降り注ぐそれぞれの感情。そして、ふとしたことで自分が醜いのではないかと思ったり、はたまた、それで親友との絆が深まったりと、どこを切り取ってもキラキラとしている話だ

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長野作品の中で人気の登場人物がいる。それが、『天体議会』に登場する13歳の水蓮と銅貨、そして銅貨の血の繋がらない兄、17歳の藍生だ。

ノスタルジックな風景と近未来的システムが同時に存在する長野作品特有の世界で、銅貨と水蓮は少年独特の孤独と輝きのなか、戦いながら美しく切ない冒険をする。

この作品は起承転結がはっきりしている『少年アリス』のような小説というよりは、ひとつの長い詩のようにも思える

これらと同じ登場人物が出てくる『三日月少年漂流記』(1993)も併せて読むと、世界観が余計に増し、もっと長野作品を読みたいと思うかもしれない。

全体を通して、この作家の一番の魅力は、その独特の言葉遣いとなんとも言えない透明な、それでいて思いがけないカラフルな世界を文字で書いているところだ

美しい秋の中、一読してはいかがだろうか。

(文/芥川 奈於

コラム文学
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