AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論
昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。
■AV女優は多すぎる?
青山:雇用関係の法律がこのままであれば、ですよね。労基法など労働者の権利を守ってくれている法律ではありますが、おっしゃったように雇用者が労働者に指揮命令するという関係が前提になっていて、女優さんなどの独立性を維持しようとすればかえって使いにくい。
また、権利擁護も、雇用元でないところに派遣されて働く労働者ではとくに骨抜きになりがちです。 独立自営業として女優さんが直接メーカーと契約する形が成立するとしたら、女優はごく限られたプロフェッショナルだけになる?
川奈:AV女優は現役を少なめに見積もっても4000人。経験者をすべて足し上げると15万人とも言われます。 でも、彼女たちがすべてプロのAV女優かと言われれば、違う。
AV女優が活躍する期間は、大手メーカーに出演している女優でも、平均しておよそ3年間だそうです。 1回出ただけで辞めるという子も多いと言います。
私が「同期」くらいと感じている同時期デビューで一緒にイベントに出ていたような子で、私が引退するまで残ったのは、100人のうち2、3人くらいという印象ですね。 プロと呼べるのは、全体の中の、ほんの一部なんじゃないでしょうか。
青山:そもそも出演する女性の条件を、厳しくすることが必要なのでは?
川奈:今は多すぎるがゆえに、「出た後で淘汰」という形になっています。
青山:出演した時は何も思わなかったけれど、後で後悔する人だっているでしょう。あまりにすそ野が広く「誰でもできる」状況だと、後悔する確率も高くなるのではないでしょうか。
川奈:女の子たちをどうやって入り口で阻止するか、安易には入らせなくするか……という問題ですね。
青山:もしくは辞めるときに悩みがある人が相談できる窓口があればいい。そこに初めからAVは悪と決めてかかっている人たちが入り込むと、「強要ではない後悔」まで「出演強要被害」になっていく恐れもありますが。
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■AV業界は動きが遅い
川奈:たしかに……。 出演強要問題が騒がれはじめた頃には、「女の心変わりの問題じゃん」という声も業界内にありました。 引退した後に、出演したことを後悔したり、悔しく思ったりすることについては、私も心当たりがあります。
私の名前でアマゾンで検索すると、これまで27冊書いた本だけでなく、AVが今もたくさんヒットするんですよ。 引退してから十何年も経っているのに、ですよ?
私が出たことも契約したこともない作品が、「再編集版」として売られているんです。なのに、私は一銭も貰ってません。「売ってもいいですか?」と許可を求められたこともない。
全然、納得がいきませんよ。理不尽だと思います。 肖像権の問題があるはずですが、無視されている。 ですから、こういうとき、女優さんたちに直接お金が入る仕組みが必要だと思うのです。
素材となったビデオを二次使用、三次使用した商品は、売らないか、女優がたとえ引退していても、使用に応じてお金を払うようにすべきです。本来は被害者ではなかった女性たちを、被害者にしてしまいかねない仕組みは、どんどん改善していかないと……。
青山:しかし、強要や規制強化に関する一連の問題に対して、「AV業界は動きが遅い」と思われているのではないでしょうか?
川奈:素早く動こうにも音頭を取るところがなかったんですよ。IPPAがその役割を果たすことを期待されていたんでしょうが、IPPAというメーカー団体は、街の商店会のようなものです。
メーカー各社である「商店主」たちは、プロダクションという「仕入先」の向こうで何が行われているか、知らない、としてきました。
そんなところまでは手が届かず、力が及ばないからです。 メーカーもプロダクションも流通も守る、入り口から出口までしっかりと適正化させる「合法AV」の規約をつくることが必要で、そのために改革委員会が生まれることになったわけです。
青山:でも現状は、業界と政策決定サイドにまったくパイプがない状態ですよね。
川奈:ロビー活動をしたい、という話は出ていて、シンクタンクの人に相談しています。 内閣府の担当者が、実際AVANに来たこともあります。ただ、業界内の人間を政策決定に関わらせるのは、どうしても嫌そうな印象でした。