AV業界の問題は「現場の中からの変化」を 川奈まり子・青山薫教授が激論

昨年から注目を集める「AV出演強要問題」について、神戸大学・青山薫教授とAVAN代表の元女優・川奈まり子氏が対談。

2017/04/17 11:30


■AV女優は「社会的弱者」

青山:私も委員会に出席したとき、それは強く感じました。でも、中には、個人的には、業界内の声も聞くべきという人もいます。いずれにしても公務員は仕事上個人の意見は言えないし反映できないから、業界の側が議論の場に参加する仕組みをつくらないとしかたないですよね。


川奈: まったく意見を言わせてもらえないので、2月頭にAVANとIPPAと、制作者有志グループからそれぞれ、内閣府に「自分たちはどう思うか」という照会状を送りました。


青山:どういうふうに受け止めたんでしょう?


川奈:返事を迫る形式にしましたが、いまだに返事はありません。でも、3月に発表された報告書には、私たちの意見が少しは反映されているかもしれません。 IPPAとAVANのプロフィールも好意的な紹介のされ方で記載されましたし。


青山:「AVとは何か」を定義していくのと同時に、世の中に対するPRも大切ですね。


川奈:AV女優は「社会的弱者」です。ただでさえ世の中で立場が弱いAV業界の人間を、さらに追いやるような状況は怖いと感じます。

「監督官庁をつけろ」という声もありますが、政府や政権の意思で、道徳や公序良俗まで支配されるのはどうなのでしょうか。   AVが持つ「セックス産業」という面だけにフォーカスして規制されるのも問題で、AVと映画は「映像制作」という面で地続きの部分もあります。

「裸ビジネス」として差別されて、私たちが「出演業だ・映像制作だ」と言えなくなるのは、今住んでいる家を出ていかないといけなくなるなど生活に直結する問題にもなりかねません。


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■AVの演出はワンパターン

川奈まり子

青山:法律をつくるということは、取締の対象をつくるということ。HRNの報告書以降進んでいることは、AVというカテゴリーを改めて取り締まりの対象にしよう、もっと言えば、監督官庁が認めるおそらく狭い範囲外は犯罪化しよう、ということです。

一方、川奈さんたちもAVというカテゴリーを改めてつくろうとしている。犯罪化にがんじがらめになる前に、「他の芸能界とゆるくつながっている出演業・映像制作だ」という状況を業界側が確立する必要がありますね。

とはいえ、じつは私はAV自体にはあまり興味がないです。AVは、「性器同士の性交」にこだわりすぎているように見えて…。


川奈:私が出演したものや溜池ゴロー作品の中には、からみがまったくなかったり、企画性に富んだものもあるんです。

ただ、AVユーザーのほとんどは男性で、ほとんどのAVは彼らの自慰行為の道具として存在している。顔射や潮吹きといった演出は、男性ユーザーが射精しやすいように設計されたものです。


青山:ヘテロ男性中心のワンパターンですよね。


川奈:私が現役のころは痴女モノが流行って、その後、反動なのか陵辱ものが出てきて……といった流行り廃りはありました。でも、自慰行為の道具である以上、基本的なパターンはどれも似通ってしまうのかもしれません。


青山:性と生殖についての理解や女性差別へのまなざしが業界に欠けているのではないでしょうか?「その辺りをあまり突き詰めるとエロがなくなって」という面もあるのでしょうが、誰かのエロを求めて他の誰かを足蹴にしている構造的な問題がないか。

たとえば性表現規制の話でさえ、女性など特定の性が貶められることに反対する論理なら、味方につけるべき部分もある。そこで、国による性表現規制に反対の人でも、人道的な意味で「AVの規制には賛成」になる場合がある。この人たちを味方にする努力も必要でしょう。


■現場の中からの変化を

川奈:戦い方がまだわからない部分が大きいですが、漫画や性表現の周辺領域をふくめて仲間を見つけて、広く手を取り合っていきたいと思います。


青山:「ポルノはすべて性暴力だ」といった議論に対しては、ジェンダーバランスのよい立ち位置で対応する必要があります。

「エロ自体は男性のためだけのものだけじゃない」といった主張が映像に反映されるようなら楽しみですし、業界の中で女性の地位を高める努力もほかの業界以上にしていけば未来が明るい気がします。

それから、AV業界に悪いことがあるとしても、それは「現場の中から変えられる」と強く言って、実際変えていってほしいです。

そうでないと、ほとんどの女優は人身取引の被害者で、ほとんどの制作関係者は加害者という図式にからめとられてしまいます。それでは世の中殺伐としちゃいますもんね。


(文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

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