京大入学式の「歌詞引用」に著作権料を請求? JASRACに真相を聞いた

4月、京都大学の入学式の式辞でボブ・ディランの歌詞が引用され、「JASRACが著作権料を請求」と報じられた。その真相は…

2017/05/20 16:30


裁判
(AndreyPopov/iStock/Thinkstock)

19日朝、京都新聞が報じた「京都大学の入学式における歌詞引用」の問題は、大きな波紋を拡げた。

「式辞に歌詞引用、著作権料を 京大HP掲載でJASRAC」と題された記事では、京大の山極寿一総長が、今年4月に行われた入学式で、ボブ・ディランの歌詞を式辞において紹介したことについて、

「日本音楽著作権協会(JASRAC)がウェブ上に掲載した分の使用料を京大に請求していることが18日、関係者への取材で分かった」


としている。



■ネットには批判があふれる

JASRACは、今年1月、音楽教室に対して著作権料を請求する方針であることが明らかとなり、2月にヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所が『音楽教育を守る会』を結成。

5月には、ヤマハなどが「支払い義務がない」としてJASRACを提訴することが報じられている。

こうした一連の報道もあってか、ネットではJASRACを批判する声が圧倒的だ。たとえば、侮辱・揶揄するための造語『カスラック』でツイッター検索すると、膨大な数の罵詈雑言がヒットする。


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■JASRAC「著作権料は請求していない」

しかし、しらべぇ編集部がJASRACに電話取材したところ、広報担当者は「京都大学には『著作権侵害の請求』は行なっていない」と回答した。

「JASRACは、『その使用が引用か否か』を判断する組織ではありません。今回についても、『引用とは認められない』と判断したからご連絡したのではなく、利用許諾手続きについてご案内しただけです。そのご連絡の中で、『引用』という言葉は一度も出てきませんでした」


とのことだ。


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■「引用」とは何か?

引用とは何なのか。使用とはどう異なるのか。著作権法32条は、

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」


と定めている。これについてレイ法律事務所に所属する舟橋和宏弁護士は、

「過去の判例によれば、

①引用するものが公表された著作物であること

②引用される著作物とその著作物を引用した著作物とが明瞭に区別することができ

③引用した著作物が主であって、引用された著作物が従であること

④著作物の出所が明示されている

場合には、引用することが許されると考えられています」


と解説する。この4条件を満たす使用であれば「引用」と認められ、著作権者の許諾や連絡は一切必要ない。

また、「(条件を満たした)引用か否か」は著作権者の胸先三寸で判断されるものではなく、この点もJASRACの説明と合致する。


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■今回の使用は「引用要件」を満たす可能性が高い

入学式の式辞およびそれを掲載したサイトでの使用は、「引用」と認められるのだろうか。式辞全体ではおよそ4300文字の中で、歌詞が使用されている部分は訳詞を入れても330文字ほど。

舟橋弁護士は…

「ウェブサイトの記載を見る限り、引用された歌詞を記号で括りだしたり、末尾にボブ・ディラン氏の名前等を明示するなどしており、様々な要素からみると、引用要件を満たしていると思われます」


との見解だ。


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■JASRACサイトも「引用」について記載

今回の事案は、京都新聞の見出しが「式辞に歌詞引用、著作権料を」と刺激的だったため、「(著作権法が認める)引用でも著作権料を請求してくるのか!?」と、衝撃が走った可能性もある。

この点について、しらべぇ編集部が京都新聞に電話取材したところ、「記事に書かれている以上のことはお答えできない」との回答だった。

しかし、JASRAC公式サイトの「学校での音楽使用」について触れたページには、

「手続きが必要ないケースとして『学校などの授業のための複製』『営利を目的としない演奏・上映』を中心に説明しています。ほかにも『個人的に楽しむための複製』や『引用』など著作権法上の条件を満たせば手続きせずに利用できるケースがあります」


と記されており、引用であれば著作権料の支払いや手続きする必要がないことをJASRAC側も認めている。


■著作権者からの連絡を怖がらない

JASRACから「利用許諾手続きについての連絡」を受けたら、多くの人は動揺するだろう。

しかし、広報担当者が「JASRACは『引用か否か』を判断する組織ではない」「引用でないと判断して連絡したのではない」と述べているように、要件を守った引用であれば焦る必要はない。

その点では、「とくに対応しない」と報じられている京大の対応が正しく、見習いたい姿勢だ。

一方で、「利用の仕組みを案内しただけ」としている著作権者に罵声を浴びせたユーザーは、軽々に過ぎると言えよう。


■著作権法を守り、引用を正しく知る

ネット上には、引用の範疇をこえて著作権を無視したコンテンツが多く存在する。他方、自らが権利者になった場合には、著作権法を無視して「引用に対して許諾や費用を求めるユーザー」も見られる。

参考:弁護士が解説! 「ツイッターの引用」って合法? 違法?

引用に対する誤解は一般ユーザーにとどまらず、本来無断であるべき引用に対して「無断引用」なる誤った造語を報道に用いる大手メディアも少なくない。

参考:WELQ問題でも注目の「無断引用」という言葉は誤り! 弁護士が警鐘

SNSの発達によって、自らが権利者にも利用者にもなりうる時代。著作権へのより一層深い理解が、一人ひとりに求められる。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/レイ法律事務所舟橋和宏弁護士)

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