平成の御代を振り返る 藤原敏史監督に聞く「今上天皇は稀代の『有徳』の天皇」
東日本大震災を記録したドキュメンタリー映画『無人地帯』でも高く評価された藤原敏史監督は、天皇陛下と直接話した経験を持つ。
■「今上天皇の大きなプロジェクト」
———今上陛下は伝統的な天皇に戻そうとされたということでしょうか。
「そうです。その近代天皇制を現代的に超克する一方で、いわば『元に戻す』ことが今上天皇のひとつの大きなプロジェクトであり、さらに言えば歴史学者である東宮にはさらにその意識が強いようにも思えます。
東宮は、たとえば誕生日会見で(近代以降天皇が仏教から切り離されたことを覆すように)後奈良天皇宸筆の、全国一ノ宮に寄進された般若心経の写経について詳細に語っている。
この写経には、末尾に世が乱れ疫病などに民が苦しむことを憂え、それを自らの徳の欠如が理由であるとして悔やむ天皇自身の言葉が綴られています。
つまり天皇とは歴史的にそういう存在であり、今上天皇一家はそういう歴史的天皇制の役割を意識することで、はっきり言えば時代錯誤ですらある世襲の『神聖君主』、それも近代日本があの戦争に至ってしまった大きな原因にもなってしまった一族の継承者でもある自分たちの立場に折り合いをつけようとしているのではないか、とも思えます」
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■「現代における天皇の役割」を追求
————今上陛下は「象徴」に徹するように努められましたが、それをどう評価されますか。
「今上天皇本人は非常に知的で合理的な、近代的な知性の持ち主であり、また10代前半で『現人神』天皇制の暴走を自ら目撃し、バイニング夫人のような人に民主主義と個人主義の教育も受け、しかも本人がかなり頑固で気性が激しい面もおありになる人だけに、自分が運命付けられた立場の矛盾というものは真剣に考え抜いたこともあったでしょう。
その苦悩や深い思索があのような生き方に結実したのでしょう。それは天皇制などの君主制に原理原則としては反対の人たち、例えば日本共産党の人たちの心さえ打つような、純粋に人として尊敬すべき姿でもあり、そうした生き方によって人としてのあるべき道、倫理を示すことがまた、今上天皇夫妻が行き着いた『現代における天皇の役割』なのかもしれません。
付け加えるなら、それは平成の30年間に限ったことではなく、むしろ皇太子時代から継続されて来たものでもあるように思えます」