撃墜された中国の偵察用気球、その性能と「役割」は? 見えてくる情報戦争の実態

【舛添要一『国際政治の表と裏』】中国の「偵察気球」がアメリカで撃墜された。2020年、21年には同様の気球が日本にも飛来していたが…。

2023/02/12 05:30



■今やハイブリッド戦争の時代になっている

今ウクライナでは戦争が行われているが、軍隊による正規戦の他に、サイバー戦、情報戦などを組み合わせた戦いが行われている。これを「ハイブリッド戦争」という。たとえば、ウクライナ、ロシアの双方がテレビやSNSを駆使して、捏造した画像なども使ったプロパガンダを展開している。それが世界中の人々に大きな影響を与え、国際世論の形成に寄与しているし、国内では愛国心を高揚させるのに役立っている。

とくに情報が大きな意味を持ち、情報操作に長けているほうが戦局も有利に進めることができる。今のところ、ウクライナのほうが一歩先を進んでおり、それが、戦車やミサイルなど、西側からの最新鋭の武器の供与をもたらしている。


関連記事:2022年世界平和と国際経済を破壊したプーチンの大罪 来年はどう出る?

■情報の重要性に鈍感な日本人

ところが、情報の重要性について、第2次世界大戦後の日本人は全く関心を無くしている。戦前、戦争中は、軍人や外交官に優れた情報人材がいた。

たとえば、明石元二郎大佐である。彼は、日露戦争の時にロシア公使館に駐在武官として勤務し、情報収集、ロシアの反政府勢力の支援などに大きな成果を上げ、日露戦争での日本の勝利に貢献している。

また、第二次世界大戦中に、ナチスの迫害から避難してきたユダヤ人にビザを発給して命を救った杉原千畝は、リトアニアのカナウスの日本領事であった。実は、彼の本来の業務は得意のロシア語を活かした情報活動であった。ヒトラーとスターリンは独ソ不可侵条約を結んでいたが、ドイツがいつソ連を攻撃するのかという情報を収集することが仕事なのであった。


関連記事:泥沼状態のウクライナ戦争 停戦の鍵握るのは軍事、政治、経済の「限界」

■戦後の日本人の平和ボケ

1945年8月に太平洋戦争で連合国に無条件降伏した日本はアメリカに占領され、日米安保条約体制の下、アメリカの核の傘によって守られることになった。そのために、安全保障、つまり軍事も情報もアメリカ任せになってしまったのである。

しかし、今や経済的にも軍事的にも大国となった日本は、独自の情報・諜報能力を持つ必要がある。

ゼレンスキーが率いるウクライナも、きちんと情報を収集していれば、ロシア軍の侵攻は事前に予測できたはずである。台湾有事も囁かれている。日本も情報・諜報の重要性に気づくべきである。


関連記事:まもなく1年迎えるウクライナ戦争 米軍がウクライナ介入できないワケ

■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「日本とフィリピンの関係性」をテーマにお届けしました。

・合わせて読みたい→泥沼状態のウクライナ戦争 停戦の鍵握るのは軍事、政治、経済の「限界」

(文・舛添要一

舛添要一氏新著『スターリンの正体 ~ヒトラーより残虐な男~』【Amazon】

中国舛添要一国際政治の表と裏
シェア ツイート 送る アプリで読む

編集部おすすめ


人気記事ランキング