台湾有事と防衛の「現在地」 戦争起きれば自衛隊航空機・艦艇を大量に失う試算も…

【舛添要一『国際政治の表と裏』】「台湾有事」が発生した場合、それは第三次世界大戦の開始だと見てよい。

2023/04/16 04:45


自衛隊ヘリ

4月6日、沖縄県の宮古島沖で自衛隊ヘリコプターが消息を絶ち、懸命の捜索が続いているが、海中に墜落したものと思われる。

3月16日には石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が開設され、「地対艦ミサイル中隊」など570人規模の部隊が配備された。中国が台湾を武力統一する事態を念頭に置いて、先島諸島の防衛を強化するためである。

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■自衛隊の南西シフト

さらに遡ると、自衛隊は、2016年に与那国島、2019年には宮古島と奄美大島に駐屯地を開設し、中国の脅威に対して「南西シフト」を敷いた。

地図を見れば分かるが、台湾のすぐ東に与那国島、そのさらに東に石垣島、その先に宮古島という地理関係である。台湾の北東には尖閣諸島もある。台湾有事の際に、これらの諸島に影響が及ばないということは考えがたい。とくに尖閣諸島は中国も領有権を主張している。


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■米軍の危機感

それでは、台湾有事とは、具体的にどのような事態を指すのであろうか。2月2日、ジョージタウン大学の講演で、ウイリアム・バーンズCIA長官は、習近平主席が2027年までに台湾侵攻の準備を整えるように人民解放軍に命じたことことを示す情報を入手したと述べた。そして、習近平の台湾統一への野心を見くびるべきではないと警告した。

その他にも似たような予測がアメリカの国防関係者から提示されている。2021年3月には、当時の米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が、2027年までに中国が台湾に侵攻する恐れがあると述べている。さらに、今年の1月27日には、米空軍のマイク・ミニハン大将が、2025年には中国との間で戦争となるだろうという内部向けのメモを示している。

2024年には大統領選挙があり、アメリカが内政に気を取られている隙に、中国が台湾に侵攻する可能性があるというのである。また、2022年10月には米海軍のマイケル・ギルディ作戦部長は、中国の台湾侵攻は2023年にも起こりうると述べている。

第一列島線説明図(図は編集部作成)

このように米軍は、中国による台湾侵攻を真剣に危惧しており、戦争の準備を急ぐように訴えている。具体的には、中国の言う「第一列島線」、つまり沖縄からフィリピンに至るラインの内側で戦って勝てるような統合部隊が必要だという。


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■危機のシナリオ

今年の1月に、私も講演したり、議論したことのあるワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究書(CSIS)」が、2026年に中国軍が台湾への上陸作戦を実施した場合を想定した机上演習の結果を報告書にまとめた。それによると、ほとんどのシナリオで中国軍は台湾の早期制圧に失敗するが、米軍や自衛隊も大きな損失を被るという。

最も可能性が高いシナリオでは、中国軍は台湾の主要都市を占拠できないか、台湾南部・台南の港を一時制圧するにとどまった。中国軍は揚陸艦の9割を失うが、米軍は空母2隻とその主要艦7〜20隻、航空機168〜372機を失う。自衛隊は航空機112機、艦艇26隻を失う。そうなるのは、中国軍が在日米軍基地や自衛隊の基地を攻撃するからである。

人民解放軍が台湾を制圧できないのは、台湾軍の抵抗が有効なことと、在日米軍基地などからの米軍の支援があるからである。このような台湾有事は、かつてのような太平洋戦争と同じであり、第三次世界大戦の開始だと見てもよい。

先述したように、先島諸島は台湾と地理的に近く、沖縄本島を含めて沖縄県が中国軍の台湾侵攻の影響を受けないはずはない。米軍が出動すれば、日米安全保障条約を結ぶ同盟国の日本が中立であることは不可能であり、自衛隊は米軍を支援せざるをえなくなる。


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■中台の綱引き

台湾の蔡英文総統が、4月5日、アメリカでマッカーシー下院議長と会見したことに反発した中国は、台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。一方、野党国民党の馬英九前総統は、3月27日から4月7日まで中国を訪れ、「一つの中国」路線を堅持する北京政府と融和する姿勢を見せた。

台湾の人々の多数は、「中台統一」にも「台湾独立」にも反対で、現状維持を支持している。それは、統一も独立も、余りにも大きな犠牲を伴うからである。

フランスのマクロン大統領は、4月5〜7日に中国を訪問し、習近平主席と会談したが、その帰路の機内で米欧メディアのインタビューを受け、台湾情勢に関連して「EUはアメリカの政策に追随すべきではない」と主張した。つまり、米中対立から距離置いて、「第三極」を目指すべきだとした。この発言に対しては、ドイツなどから反発する声も聞こえる。

しかし、アメリカ一極支配への疑問という点では、フランス、中国、そしてロシアは一致している。日本は、アメリカと軍事同盟を結んでおり、自らの核武装し、米軍基地もないフランスとは立場が異なる。しかしながら、外交政策に関しては、単なる対米従属ではなく、中国との関係改善も含めた複眼的な視点が必要である。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「台湾有事」をテーマにお届けしました。

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(文・舛添要一

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