左利きの私が感じる飲食店の「利き手」問題 箸から見える店員の細やかで頼もしい気配り
【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】「左利き」から見た、箸置きのあれこれ、飲食店での微細な配慮とは…。
■スマートフォンが脅かす「手食」文化
インドカレーが好きで、日本国内でもよく食べに行くのだが、宗教的に左手を使うと不快な思いをさせてしまわないかといつもそこはかとない遠慮を感じていたものだ。数年前、カレーの作り方を習いにインドに5日間の日程で超・超・短期留学をしたときに、シーク教の巨大な寺院の聖堂でカレーを振る舞っているのを見た。
何百人という人が、ずらりと並んでカレーの施しを受けている。手で食べている人、スプーンで食べている人、左手で食べている人、様々だ。左手で食べていても、周りの人は何も感じていない雰囲気で、少しは安心した。案内してくれた現地のインド人は「手食」文化を守りたい人で、最近の若い人たちがスプーンを使うことについて嘆いておられた。
「手食は私たちの文化です。しかし、文化を文明が壊そうとしている」
何のことかと思ったら、昨今の若者はスマートフォンをいじるので、手食を嫌うようになってきているのだとか。
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■ナイフとフォークだと左利きが楽
ナイフとフォークについては、楽をさせてもらっている。イギリス式では左手にフォーク、右手にナイフと決まっているが、アメリカでは肉などを最初に全部切ってしまい、改めて右手にフォークを持ち変える人が多いらしいが、それはイギリスでは子供じみた食べ方と見られるようだ。
左利きがどうして楽かというと、切る時にナイフが右だったとしても、前後に動かすだけの単調な作業であり、食べる時には得意な左手を使えるので、これまたストレスがないのである。
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■「左利き」「左党」の謎
ところで、酒飲みのことを「左利き」「左党」などという。なぜなのかが気になっていたが、近年謎が解けた。私の当て推量では、「右手の箸を置くのももどかしく左手で杯を持って頻繁に口に運んでいるから左利きということなのだろう」と勝手な合点をしていたら、職人が右手に槌を持って、左手に鑿(ノミ)を持っているから、右手は槌手で左手が鑿手、つまり「飲み手」という語呂遊びのようだ。「左党」も、そこから派生したものらしい。
さて、今夜も左手を駆使しに出掛けよう。
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■著者プロフィール
Sirabeeでは、俳優、エッセイストの松尾貴史さんの連載コラム【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】を公開しています。ワインなどのお酒に詳しい松尾さんが「酒場のあれこれ」について独自の視点で触れていく連載です。今回は松尾さんが「左利き」の視点から見た、箸置きのあれこれ、飲食店での微細な配慮、移り変わる食文化について掲載しました。
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(取材・文/Sirabee 編集部・松尾貴史)