アフガニスタン「タリバン復権」から2年、非難集まる“差別”と深まる孤立

【舛添要一『国際政治の表と裏』】タリバン政権による女性への抑圧が、アフガニスタンに暗い影を落としている。

2023/08/20 04:45


アフガニスタン

日本にとって8月15日は終戦記念日であるが、アフガニスタンでは、2年前の8月15日にタリバンが復権している。タリバンとは、イスラム原理主義の神学生らが、1994年に結成した武装集団である。

マドラサ(イスラム神学校)の学生をアラビア語で「タリブ」と呼び、その複数形をパシュトゥー語で「タリバン」という。この名称がメディアでよく使われるようなったのである。そして、1996年には、アフガニスタンで政権を樹立した。

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■ソ連軍のアフガニスタン侵攻

アフガニスタンでは、1978年に共産主義を掲げるアフガニスタン人民民主党が政権に就いた。しかし、これに対抗する武装勢力は激しい抵抗運動を展開し、全土を制圧する勢いとなった。そこで、共産主義政権はソ連に助けを求めたのである。

この要請に応えたソ連のブレジネフ政権は、1979年12月24日、アフガニスタンにソ連軍を侵攻させた。ムジャーヒディーンと称する兵士たちは、抵抗活動を「聖戦(ジハード)」と位置づけて戦ったが、世界中からイスラム教徒の義勇兵が馳せ参じたのみならず、アメリカや隣国のパキスタンが背後で武器援助などを行った。

こうして泥沼の戦争が10年も続いたが、ゴルバチョフの登場により、1989年2月15日にソ連軍の完全撤退が完了した。10年にわたるアフガン介入は、ソ連邦の解体をもたらした大きな要因の一つである。

ソ連軍撤退の後には、アフガニスタンは内戦状態となり、パキスタンから潤沢な資金と武器を供与されたタリバンが勢力を拡大していき、1996年には国土の大半を支配下に置いたのである。


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■アルカイダとも関係

アルカイダのビンラディンは、スーダンにいたが、1996年5月に拠点をアフガニスタンに移し、そこからテロ活動を指揮した。自分と同じイスラム原理主義者が権力を握っているからである。サウジアラビア出身の大金持ちのビンラディンが提供する資金も、タリバンには魅力的であった。

アルカイダは、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロを行った。そこで、アメリカはアフガニスタンに対して、ビンラディンの身柄を引き渡すように要請したが、タリバンは拒否した。アメリカはこれに反発し、10月にアフガンスタンへ侵攻し、タリバン政権を壊滅させた。タリバンは南部に逃れ、パキスタンからの支援で生き延びていった。

因みに、ビンラディンは、2011年5月2日、パキスタンの山岳地帯の村に潜んでいるところを米軍に攻撃され、死去した。


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■アメリカの関与

アフガニスタン戦争の後、米軍の駐留下で、新しい国作りが始まった。ところが、そうして誕生した政権では、汚職が絶えず、政治も行政も十全には機能しなかった。そして、国民の不満は高まり、外国支配からの脱却を訴えるタリバンの主張に耳を傾ける者も増えたのである。

米軍は、当初わずか9千人の兵士を配置したのみで、それでは占領行政がうまくいくはずがなかった。2003年にはイラク戦争が始まり、米軍はそちらに勢力を集中させた。その間もアフガニスタン政府の腐敗は拡大し、国民は反発し、タリバン復権への道を開いたのである。

米軍の駐留は、アフガニスタンに統治能力のある政府を育てるには至らなかった。そして、20年間に及ぶ駐留の末、2021年8月15日に撤退したのである。アメリカに協力したアフガニスタン人など約12万人がアフガニスタンから脱出する悲劇となった。

シリアでもアフガニスタンでも、米軍はもっと駐留すべきであったのではないか。中東でアメリカのプレゼンスが低下した隙に、ロシアや中国が影響力を拡大しようとしている。


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■看過できない「女性差別」

タリバンは、イスラム法によって統治するとして、たとえば女性の教育や就労を制限している。

先月には美容院の閉鎖を命じている。国際社会はこれに反発し、タリバン政権を承認する国は1カ国もない。女性差別の撤廃が経済援助の条件だと圧力をかけているが、今のところ、タリバン側は、それに反応していない。

イスラム国でも、トルコやチュニジアなどでは、女性の権利が認められており、私はチュニジアに出張したとき、法服を着た女性裁判官がチュニスの町を闊歩しているのに遭遇し、驚いたものである。

イスラムの教えは、女性を差別せよというものではなく、弱き者(女性)を助けよ、そして、美しい部分を夫や父親以外の男に見せてはならないというものである。そのため、ベールやブブカで顔を隠すのである。男に言い寄られて危害が加えられることを避けたいという願いなのである。

預言者ムハンマドの活躍した7世紀と今では時代が違う。タリバンには柔軟な対応を望みたいが、今のところ、その兆しはない。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「タリバン」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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