岸田政権「年収の壁」対策は奏功するか? 国民も改めて制度を熟知する必要がある
【舛添要一『国際政治の表と裏』】「年収の壁」が議論されている。元厚生労働大臣である筆者が問題点を考察する。
■年金改革
日本は国民皆保険、国民皆年金という仕組みを誇っているが、これを作るときに専業主婦をどうするかという問題があった。1986年4月の改正で、第3号被保険者制度が始まったが、厚生年金加入者である第2号被保険者の扶養配偶者を第3号被保険者という。
働いている独身者などの女性は、保険料を払い、年金も支給される。専業主婦の場合に年金が支給されないという問題が生じるのを防ぐために、第3号被保険者制度が導入されたのである。保険料は、夫が一括して負担しているので、主婦が個別に保険料を支払う必要はない。
女性が、専業主婦、共働きのいずれを選ぶかは個人の自由である。どちらを選ぶかによって不公平が生じるのは避けねばならないが、その要請に完全に応えるのは難しい。年収の壁も、その問題の一つである。
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■社会保障制度の改革
マイナンバーも導入され、社会保障も個人が単位となるが、配偶者扶養の仕組みをどう改革するかは衆知を集めて検討する必要がある。専業主婦の家庭での働きをどう金銭的に評価するか。夫の年収が600万円の場合、夫婦で稼いだと考え、単純化して夫の年収が300万円、妻の年収が300万円と見なせば、税金や社会保険料の処理が個人単位でできる。
しかし、様々な問題も生じる。税収の確保を第一に考える財務省と、社会保障制度を管轄する厚生労働省との見解も異なってくるだろう。各政党が、自らの社会保障制度改革を掲げ、その優劣で政権を争うような競争が民主主義の理想である。それが実現しないのは、政策作りを官僚に任せてきた政治家の怠慢である。
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■皆で考えよう
私たちも、税制や社会保障制度が変わると、どのようなプラスとマイナスがあるか、頭の体操をしてみたい。年収によってプラスになったり、マイナスになったりするし、社会全体にとってはまた別の視点も必要である。
年収の壁だけが問題ではない。これを機会に、健康保険、介護保険、年金などの社会保障制度、また税制についても、基本的知識を得るようにするとよい。霞ヶ関の役人に騙されないためには、私たちも制度を熟知しておく必要があるのである。
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■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「年収の壁」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)