東山紀之の涙が際立たせるものは…松本清張『花実のない森』
男はドライブの帰り、タクシーが捕まらずに困っていた一組の夫婦を乗せる。それは謎めいた美しい女との出会いと、連続殺人事件に巻き込まれる第一歩だった――。
松本清張の長編推理小説『花実のない森』(光文社文庫)が、今日3月29日夜9時テレビ東京のドラマ特別企画として放送される。
同作のテレビドラマ化は初で、主人公の梅木隆介を東山紀之、謎めいた美しきヒロイン・江藤みゆきを中山美穂が演じ、梅木の恋人・藤村真弓を相武紗季、物語のカギを握る楠尾英通を小澤征悦ほか、渡辺いっけい、鷲尾真知子、大和田獏、中原丈雄、吹越満、寺島進など、豪華キャストが顔をそろえた。
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■初共演や初松本清張作品など
テレビ東京・松本拓プロデューサーが「『初めて』というキーワードにこだわった」という今作では、初のテレビドラマ化だけではなく、同期デビューである東山紀之と中山美穂が初共演というのも話題のひとつ。
また、監督は『とんび』(NHK)や『天皇の料理番』(TBS系)などの演出を手掛けた中前勇児氏、脚本は『紙の月』や連続テレビ小説『まれ』(NHK)の篠崎絵里子氏で、実力派の監督と脚本家だけに意外だったが、この『花見のない森』が初めての松本清張作品となる。
記者は一足先に試写を観たが、設定を現代にすることで、原作から再構築された部分がかなり大きい。
放送前ということでネタバレは控えるが、この再構築によって物語の核となる人物造形やその背景に深みが増しており、「なぜこの連続殺人が起きてしまったのか? そして迎える結末の理由とは」が、より明確になった感がある。
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■凛とした女性と男の涙
野心家の主人公・梅木が、一目で心奪われるヒロイン・みゆき。彼女は原作でも、ただ美しいだけでなく、気品あふれる人物として描かれている。
中山が演じた江藤みゆきは、美しさと芯の強さを併せ持つヒロインとなっているのだが、その存在感を際立たせたのが東山演じる梅木と小澤征悦が演じた楠尾英通の二人が、さめざめと泣くシーンだった。
なぜ、男二人がこんなに泣くことになったのか? 脚本家の篠崎氏に話を聞いた。
「やはり脚本家にとって松本清張作品というのは別格なので、意気込みはありました。新しい、現代なりの『花実のない森』を描く中で、背景や動機は変えたのですが、登場人物たちの気持ちといいますか、世界観は変えたくなかった。
主人公の梅木は野心家で、手段を選ばないタイプですが、すごく純なところがあります。また、みゆきという女性の尊厳とか、凛として立っている――女性に共感されるような、守りたいものを持っていて、守り切ることで周りを生かす――そんな姿を大事にしたいと思いました。
男性お二人に泣いていただいたのは…私、結構、泣かせちゃうんですよ。(笑)普段泣くイメージのない男性が、泣くシーンが好きなんですよね。東山さんも、小澤さんも、とても熱い方たちで、涙のシーンもすごく感情が伝わってきて…。あの涙の先に、希望を見つけていると考えています」
ミステリー作品としての見応えだけでなく、原作ファンにとっては“現代が舞台になると、こうなるのか”といった面でも、楽しめるドラマといえそうだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・くはたみほ)