越後長岡「文化財」の蔵で醸される『長陵』 郷土の文化と歴史へのオマージュも込めて
高橋酒造の代表銘柄『長陵』の名は、長岡市の雅称が由来。
県内最多、16もの日本酒蔵元が集まる長岡市。それぞれに個性ある銘柄を競うが、高橋酒造では郷土の誇りを高らかに歌い上げている。
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■リバーサイドの文化財で醸される『長陵』
長岡駅から北東に1.5kmほど離れた栖吉川(すよしがわ)のほとりに、高橋酒造の蔵はある。この川は市街中心部の南東約9kmにそびえる鋸山に源を発し、日本一の長河・信濃川に注ぐ一級河川。
1613年に徳川譜代大名の牧野忠成が築城した長岡城は、現在のJR長岡駅あたりに本丸があった。城は信濃川と栖吉川が周囲を取り囲んで、自然の外郭に守られていたといわれる。
その栖吉川の左岸リバーサイドに出現する赤煉瓦の建物が、安政年間(1854~1860)創業の高橋酒造の蔵である。数ある新潟の酒蔵の中でも、大正モダンのその外観は独特の雰囲気。
高さ20mほどの煙突も煉瓦を積み上げて造られ、側面には『長陵』の文字か見られる。
「これらは大正時代に建造されたもので、2007年、国の登録有形文化財になりました。貴重な工法と、歴史的・文化的価値などが認められたものです」と、専務取締役で製造責任者の関口賢史さんが紹介してくれた。
現在も代表銘柄『長陵』をはじめとする酒は、この文化財の蔵の中で粛々と造られている。
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■イギリス積みで築かれた煉瓦の煙突
蔵のシンボルともいえる煙突は一辺が1.2mで六角形、見上げる高さは20mで圧倒される。煉瓦は一段おきに向きを変えて積むイギリス積みで、フランス積みより頑丈だとか。
この煙突が新潟地震や新潟県中越地震に耐えられたのも、その工法の故だろうか。 建物は外壁からすると煉瓦を積み上げただけのように見えるが、内側はしっかりとしたコンクリート壁になっている。
したがって壁が厚く、蔵の内部は温度や湿度がきわめて安定しているという。
「酒造りにはとても有効な環境です。昔ながらの酒づくりにこだわった商品ができるのも、こうした蔵のお陰です。
際だった個性をとくに求めているわけではないが、イメージとしては優しさ。優しい味ではなくて、優しさそのものです」
と、造りの現場を指揮する関口さんは語る。この蔵の酒は柔らかく円やかな味が特長。なんだか哲学的な表現だが、甘辛を超えた酒の存在そのもののあり方をいっているようで、胸にストンと落ちた。
蔵では酒造りで大切にしていることに「健康であること」を掲げている。設備や技以前に、造り手が心身共に健やかであってこそ、優しさは醸せるのかもしれない。