【舛添要一連載】小池都知事が推進する高校授業料の無償化、金持ち層だけ優遇する「所得制限撤廃」に意味はあるのか?
【国際政治の表と裏】小池百合子都知事が年末に示した高校授業料無償化の所得制限撤廃。果たしてその判断は正解なのか。
小池百合子都知事が、世帯年収が910万円未満を対象としている私立高校の授業料支援制度について、所得制限を撤廃するという。
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■公立高校の授業料はすでに無償化
自民党の派閥のパーティ券問題で永田町に激震が走っている中で、小池は、国政復帰へのチャンス到来とばかりに、世間が注目するネタで得意のパフォーマンスを始めたようである。
しかし、この問題は、様々な視点から検討する必要があり、1人の扇動政治家の選挙戦術で終わってはならない。公立高校については、国の支援金制度で、授業料無償化に所得制限は無くなっている。私立まで無償化されると、何が起こるか。
一般的に、私立高校のほうが施設や設備が充実しており、授業料で公立との差が無くなると、皆、私立に殺到するであろう。その結果、公立高校の人気が下がって定員割れすることが懸念される。
さらに言えば、無償化の財源は税金であり、結果的に所得制限撤廃は、高額所得世帯を優遇することになる。
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■教育費が少子化の原因
日本では教育費がかかりすぎる。幼稚園から高校まですべて私立にすると、15年間で学習費の総額は1700万円となる。全部公立でも500万円かかる。これは、教育費の公的負担が少ないからである。とくに高等教育(大学など)がそうである。
教育費の負担という点では、韓国や中国でも事情は同じである。教育費のことを考えると一人を育てるのが精一杯ということになる。そこで、子どもをあまり産まない少子化社会となる。
2022年の合計特殊出生率は、日本が1.26なのに対し、韓国は0.78であり、中国は1.09である。受験に遅刻しそうな受験生をパトカーで送る韓国の“受験地獄”はよく知られているし、中国では習近平政権が一人っ子政策を止めても、2人以上の子どもを持とうという夫婦は減っている。
教育費の問題を解決しないかぎり、少子化問題は解決しないのである。
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■フランスの学校
ヨーロッパでは、フランスが少子化対策に成功している。合計特殊出生率は、1993年には1.66だったのが、2022年には1.80に上がっている。これは家族手当、低所得者への保育料無料など、様々な支援策を実行に移したからである。大学も含め、教育は無償である。
私は、50年前にパリ大学に留学したが、授業料が無償なのに驚いたものである。日本では、国立大学でも授業料は有償であったし、かなりの負担だった。
フランスでは、幼稚園から高校まで私立は全体の1割程度で、大学はすべて国立である。それは、フランス共和国が教会から教育の権利を奪い取ってきた長い歴史に根ざしている。教育は国家が責任を負うべきだという考え方が確立しているのである。
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■アメリカの大学
国家が費用を含め、教育に全責任を負うというフランスと対極にあるのがアメリカである。アメリカの大学は私学が基本である。私は、若い頃、アメリカの幾つかの大学で授業をしたことがあるが、すべて私立で、キリスト教福音派系の大学が多かった。
私立大学は授業料も高い。しかし、奨学金制度が拡充しており、返還義務のないものもある。卒業生で事業に成功した実業家などは、こぞって大学に寄付をする。
そのおかげで、授業料も安くなる。このような寄付(チャリティ)の文化のあるアメリカでは、ビジネスで成功した者は、稼ぎの1割は社会に還元すべきだという考え方が広く行き渡っている。この寄付が、大学の門戸を貧しい者にも開いているのである。
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■競争があり、努力が報われるほうがよい
日本の場合、フランス型でもアメリカ型でもない。フランスは、私立学校がほとんどないので、公立学校の授業料が無償であっても、日本のように私立に生徒が殺到するという恐れはない。
日本で授業料無償化を実行すると、金持ちを優遇することになり、それで良いのかということになる。日本では、日本学生支援機構の奨学金がある。経済的余裕のない学生はこれを活用できる。
さらに、授業料免除という制度も大学によってはある。また、民間の奨学金もある。これらの制度は、経済的要因に加えて成績良好という要件があるものが多い。アメリカと同じで、頑張って成績を上げなければ獲得できない。
経済的に豊かでも、また成績が芳しくなくても、皆一律に授業料無償というのは、日本の場合はやはり問題がある。奨学金も授業料免除も、獲得するには努力しなければならないという要件があるほうが、遙かに優れているのではあるまいか。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「授業料無償化」をテーマにお届けしました。
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(文/舛添要一)