【舛添要一連載】34年ぶりの株価最高値、バブル崩壊からの「失われた30年」

【国際政治の表と裏】株価がバブル期の最高値を超えた。しかし、国民の生活は全く豊かになっていない。「失われた30年」を振り返る。

2024/03/03 05:00


株価

2月22日、日経平均株価が3万9000円を超えた。34年ぶりの史上最高値である。

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■プラザ合意

バブル以降の日本経済の動きを振り返る。

1980年の米大統領選では、ロナルド・レーガンが当選し、「レーガノミクス」と呼ばれる経済政策を実施した。その結果、財政赤字は拡大した。さらに、ドル高は輸出を減らし、輸入を増やすことになり、貿易赤字とくに対日貿易赤字を拡大させ、政治問題化した。

1985年9月22日、先進5カ国(米英独仏日)の財務大臣・中央銀行総裁会議がニューヨークのプラザホテルで開かれ、アメリカは、自国の貿易赤字を為替相場の調整によって是正することを参加国に要請した。日本の円と西ドイツのマルクの相場を上昇させる為替介入が合意された。これをプラザ合意という。

その結果、円相場は、1ドル235円から1日で20円上昇し、1年後には150円台にまで急騰した。


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■バブルの発生

当時の中曽根康弘政権は、円高不況に対応するため、内需を刺激し、金融緩和策を講じることにした。日本銀行は、1985年に5%だった公定歩合を、1986年3月には4.0%に下げ、その後も引き下げを続けて、1987年2月には2.5%と戦後最低の水準になった。

この金融緩和策は、マネーサプライを増やした。つまり、お金がジャブジャブと溢れ、その金が投資先を求めて株や不動産に流れていったのである。日経平均株価は金融緩和のおかげで半年後の1988年4月には暴落前の水準に回復し、1989年12月29日には史上最高値の3万8957円44銭をつけた。

日本マネーは海外でも金融資産、不動産などを漁った。1987年には、安田火災海上保険(現損保ジャパン)が、ロンドンで行われたクリスティーズの競売で、ゴッホの「ひまわり」を53億円で落札した。一枚の絵の取引としては最高額であった。

こうして、日本はバブルに突入していった。1986年12月頃に始まったバブルは、1991年2月頃まで続くことになる。


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■バブルの崩壊

余りにも異常な地価の高騰に対して、政府、日銀は様々な対策を講じた。

金融引き締めのタイミングが遅れていたが、日銀は1989年5月30日に、公定歩合を0.75%引き上げることを決めた。こうして、2.5%だった公定歩合は3.25%になったが、実に9年2ヶ月ぶりの利上げであった。10月に0.5%、12月に0.5%とさら引き上げ、1年3ヶ月で6%台にまでなった。

この金融引き締めの結果、株価も、1990年末には2万3848円にまで下落した。

1990年3月27日、大蔵省は土田正顕銀行局長名の通達「土地関連融資の抑制について」を発した。これは、金融機関の土地取引に対する融資の伸び率を総融資の伸び率以下に抑えることを求めたもので、「総量規制」という。銀行法に基づくこの行政指導の結果、土地への銀行の融資が激減し、「貸し渋り」、「貸し剥がし」という事態になった。

不動産、金融資産などの資産価値が急激に下落し、バブルは崩壊していった。


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■失われた30年

「失われた30年」と言われるように、この30年間、日本経済は低迷してきた。90年代後半には実質賃金は低下したのであり、デフレが進行していった。

賃金については、日本では諸先進国に比べて、驚くほど上がっていない。OECDのデータを基に、1995年〜2020年の25年間に、各国で名目賃金と物価が、それぞれどれくらい伸びたかを検討すると、韓国が2.92倍/1.92倍、アメリカが2.23倍/1.7倍、イギリスが2.08倍/1.64倍、ドイツが1.64倍/1.41倍なのに対し、日本は0.96倍/1.04倍である。つまり、日本のみが賃上げ率が物価上昇率よりも低いのである。

2012年12月に自民党が政権に復帰し、安倍晋三首相は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を掲げ、デフレからの脱却を目指した。このアベノミクスは内外に大きな期待を呼び、2013年5月には株価は1万5千円台を回復した。その後も、経済は順調に回復していき、株価は2015年4月22日に15年ぶりに2万円台を回復した。


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■今後の課題

株価はバブル期の最高値を超えた。アメリカ経済が好調で、日本企業の業績も上がっているからである。海外の投資家が動いている。しかし、国民には生活が豊かになったという実感がない。

賃金が伸びず、物価のほうがそれ以上に上がっているからである。大手企業は大幅な賃金増を実現しているが、中小企業はまだである。問題は、日本全体の生産性が低下していることである。台湾の半導体大手TSMCが熊本に工場を開所したが、かつては半導体分野では日本が世界一であった。

日本政府も何とか、競争力を回復しようと努力しているが、官民挙げて生産性向上に努力しなければ、日本の未来はない。


■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「株価上昇」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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舛添要一国際政治の表と裏
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