あなたの炊き方は間違っていた!?「ごはんの炊き方」を徹底解明
@iStock/ AnsonLu
いつもインターネットユーザーの皆様にはたいへんお世話になっております。しらべぇコラムニストになりました、松浦達也と申します。
昨年『大人の肉ドリル』という本を出してしまったので「肉専門」だと思われることが多いのですが、肉以外も大好物です。食べ物に貴賎なし。以後、どうぞよろしくお見知りおきを。
ところで、そろそろ新米の季節です。以前、とあるニュースサイトで『炊きたてごはんは混ぜないほうがいい』というタイトルの記事を書きました。
ざっくり言うと、要は炊きたてのおいしさを味わうなら、最初の一膳は混ぜないほうが炊きたてならではの特別な味が楽しめる。
混ぜるのは、冷めた時にごはん粒同士がくっつかないようにするための手法なので、一膳目を食べたあとで混ぜればいい。というような話を100年ほど前の、かまど炊き当時の資料も引用しつつ、書きました。
ところが、こういう記事はちょっぴり可燃性が高かったりします。少し一般常識と違うことを書くと、読みもしないユーザーさんから「ウソだ!」と罵倒されるのです。イマドキのインターネットの世知辛いところですね。
さて気を取り直して。上記のようにみんなが大好きな「ごはん」「炊飯」について書くのは、なかなか勇気が必要です。そこで「炊飯」について編集部に調べてもらいました。
調査対象は20~60代の男女1379人です。さてその結果は……。
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■鍋派ガッカリ…炊飯器の圧勝!
まずは使用機材から。全体の86.7%が炊飯器で炊いていました。さすが世界に冠たる日本の炊飯器、圧勝です。対して「鍋で炊く」は6.5%。
最近では鍋炊き派も増えてきたという印象もあったのですが、「炊かない/炊かれたコメを買ってくる」の6.7%すらも下回ってしまっています。
鍋炊き派の筆者はさみしい限りですが、まあ実際のところは「増えたけど6.5%」というようなことなのかもしれません。確かに20年前は、鍋炊きごはんを出す家庭なんてほとんどありませんでしたし。
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■家庭科の教えは偉大だった
ここでの多数派は「研いで一定時間、水に漬ける」が全体の6割。やはり家庭科の教えは偉大です。しっかり水に浸けています。
もっとも次点は「研いでそのまま炊く」の33%。最近だとそういう人も多いんでしょうか。最下位がピラフやパエリアを想起させる「研がずにそのまま炊く」4%。思いのほか、きちんとコメを水に浸ける人が多い印象です。
ただ、この後の質問に対しての回答結果を見て、思わず「えっ?」と声を上げてしまいました。
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■炊き方では不思議な結果が?
「普通モード」86.9%、「早炊きモード」13.1%で圧倒的に普通モードの勝ち。さらに細かく見ると「普通モード」派の64.5%が「研いで水に浸ける派」、32%が「研いでそのまま炊く派」となっています。
「早炊きモード派」で見ると48.4%が「研いで水に漬ける派」、46.5%が「研いでそのまま炊く派」という不思議な結果に。「普通モードで水に浸け」「早炊きでは浸けない」というのが、炊飯器の機能と矛盾しているのです。
多くの炊飯器の「普通モード」は最初ゆっくり温度を上げ、コメに水を浸透させ、それから本格的に炊くというような、段階的な加熱のカーブを描きます。これは水に浸けずに炊いても、上手に炊けるような加熱の方式。
つまり水に浸けたコメを「普通モード」で炊くということは、二重に水に漬ける作業をしてしまうことになるわけです。
メーカーや型にもよりますが、普通モードで炊くときは浸漬させないほうが、明らかにおいしい。少なくとも筆者はそういう印象を抱いています。
対して「早炊きモード」は鍋炊きに近い加熱のカーブ。水に漬けたコメなら、早炊きモードのほうが、おいしく炊きあがります。にもかかわらず、「普通モード派」は浸漬させる人が多数。比較すると「早炊き派」のほうがそのまま炊く人が多い。
「普通モード×浸ける派」の友人に聞くと「そのほうがちゃんと炊けそうじゃん。時間もかかるし」と言い、「早炊き×すぐ炊く派」の友人は「だって早く食べたいし」と言います。
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■もったいない! どちらも、もっとおいしく炊けるのに!
@iStock/Jiradelta
じつは炊飯にまつわる加熱の研究は各所で行われていて、近年ではおいしく炊くための加熱のメソッドが明らかになってきています。
たとえば、大阪ガスの研究では、炊飯器で炊いたコメは冷めたときに食味が落ちやすいという結果がでていて、その理由に普通モードの「温水浸漬」と「炊飯時の加熱曲線の違い」を挙げています。
また広島文化短期大学の研究チームは、加熱し始めてから沸騰までに20分以上かかると、水っぽく柔らかい炊きあがりになること。そして蒸らし過ぎも「噛みごたえや粘弾性を失い、水っぽくて柔らか」くなってしまうと結論づけています。
「加熱開始後8~15分後に沸騰させ、98℃以上で20分間」の加熱でどんな品種のコメでも「ほぼ間違いなく良いご飯が炊ける」とのこと。
そしてこの加熱のカーブは、昔ながらのかまど炊きや鍋炊き、炊飯器の早炊きモードにも近い曲線。
適正な沸騰までの時間に「8~15分」と幅を持たせているのには、「11分を過ぎる頃から(中略)微妙な変化が起こり、ご飯の味や食感などに影響する」と食べ手の嗜好によっても、加熱条件が変わるという面もあるようです。
たまに「炊飯時に、氷を入れるとおいしく炊ける」という説を耳にします。これを前述の「沸騰するまでの適正時間」に当てはめると、炊飯量が少なかったり、火力が強い場合、適正時間よりも早く沸騰してしまう。
だから加熱開始から沸騰まで一定の時間を稼ぎたい。そこで最初に氷を入れて水温を下げる、という解釈が成り立ちます。
逆に、大量に炊くときには最初からお湯を加えて「湯炊き」する。「おいしくする」手法は、環境によっては正反対に思えてしまうほど変わるのです。
(文/まつうら たつや)
【調査概要】
方法:インターネットリサーチ「Qzoo」
調査期間:2015年8月21日~2015年8月24日
対象:日本全国の20代~60代男女1379名
<参考文献>
今中 鏡子,加藤 集子,川野 純子 [他] ,田方 真由美 ,畠山 敏慧 炊飯米の形態学的研究 : 加熱過程の差,品種による差,炊飯量の差における炊飯米粒組織の観察 広島文化短期大学紀要 39, 7-25, 2006-08-07