【鈴木貴博連載】値上げ前の「買いだめ」はアリ?ナシ? “生活防衛”につなげる3つの条件

【得する経済学】経済学では在庫を増やす経営は愚策だと教える。とはいえ日本では身近な日用品の値上げが止まらない。買いだめは経済学的に正しいか、否か。

2023/12/31 06:00


ティッシュペーパー

「合計で503円です」

「ではこの新宿区のプレミアム商品券でお支払いします」

こんな感じで12月はわが家でも生活必需品の買いだめに、…いや買い出しに勤しんでいます。

今、買って帰ってきたのは5箱入りのティッシュペーパーを2セット。ティッシュも今年はずいぶん値上がりしましたね。5箱入りの大手メーカーのティッシュは最近ですと特売でも税引前で298円ぐらいが一番安い価格なのではないでしょうか。

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■買いだめは得か、無駄か

それが今日見つけたネピアは年末大安売りで248円の大特売でした。しかもパッケージには「10組増量」と書いてあって、今だけ160組320枚入っています。それをスギ薬局の「お好きな商品ひとつ15%引」クーポンで買ったら支払額が503円になるので、新宿区のプレミアム商品券の500円券と現金3円で支払ったのです。どうです? なんとなくお得でしょう?

さて、ここまでの話はいつも「お得な経済学」で紹介している方法の組み合わせなのでいつもお読みの皆さんには「基本だね」とお感じかもしれません。今日議論したいのは「買いだめってお得なの? それともお金の無駄なの?」という話です。


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■「過剰在庫はコスト増」というのが経済の考え方の基本

安く買える時期に、どうせいつか使うティッシュを買いだめする。生活防衛としては正しい行為に思えます。一方で経営学では「無駄な在庫は極力減らすほうが正しい」と教えます。これはどういうことなのでしょう?

たとえば印刷所が「どうせいつか使うから」と大量の紙を仕入れてしまったとします。そうすると3つ困ったことが起きます。

まず最初に、他で使えるかもしれないお金が減ります。次にそんな時に何か急に大きな買い物をすることもあるのですが、そうなると借金が増えます。たとえば急に印刷機が壊れて新しい印刷機を購入することになり、銀行から借り入れる際「あの大量の紙を仕入れておかなければ、借金は50万円ぐらい少なくて済んだかも」と思うわけです。

そして3つめに廃棄リスクがあります。いつか使うからと思っているうちに年月がたって紙が日焼けしたり、破損したりすることです。こういったことがあるので在庫を必要以上に増やすのは「愚かな経営者だ」と経営学では教えるのです。


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■確実に値上がりしそうな日用品が安く売っていたら?

では、いつも使うものが安く売っているからといって生活防衛のため買いだめするのは愚かな消費者なのでしょうか? 私は全然そうは思いません。経済の専門家が「来年はもっと物価が上がりそうだ」と予測するインフレの時代です。しかも日用品の方が値上げ幅が大きい傾向にあります。必ず使う日用品は一年分ぐらい在庫を積み上げてしまってもいいと思います。

実は仕事柄、いろいろな小売店を日常的に巡回する私の場合、いつも使う商品がびっくりするほど特売されているシーンによく出会います。そんな時、私は経済学の教えに反して必ず多めに買うようにしています。実際、今、私の目の前には買いだめしたティシュボックスが合計で10パックほど積みあがっています。経済学者がこれを見たら眉をひそめそうですね。

ではそうやって生活防衛のための買いだめをしてもいい条件とは何でしょう? 実はさきほどの「3つの条件」の逆がその条件です。


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■大量に買い置きをしてもいい経済学的な3つの条件

まず最初に、ティッシュを大目に買ったからといってもそのせいで他のものが買えなくなることはないでしょう。日用品の買いだめであれば家計の財政に影響は出ません。一年分ぐらいなんてことはないのです。

2番目に金利よりもお得が大きいかどうかを考えてみましょう。今はゼロ金利時代といわれていますが、一番身近なクレジットカードのキャッシングの場合は15~18%の金利がかかります。一方で298円のティッシュが248円ならばそれだけで17%安いですよね。

そこにクーポンやポイントを加えたら18%は確実に上回ります。仮に生活防衛の出費が多かったせいでキャッシングすることになったとしても、一年の金利よりもお得であれば買いだめしてもいいのです。

そして最後に在庫管理がきちんとできるかどうか。これが一番やっかいで、家の中のどこかにしまい込んで在庫があるのがわからなくなる場合は全然お得にはならないのです。特に食品など、棚の後ろに隠れていて気付いたら賞味期限を何カ月も過ぎていたなんてことになると大損です。

それで私の場合は、買いだめする日用品は「目立つ大きさのもの」をいつもの場所に積み上げておくようにしています。この3つの条件が揃う場合に限り、経済学の教えに反して在庫をたくさん抱えることは理にかなっているのです。


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■著者プロフィール

鈴木貴博

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。

今週は「買いだめが経済合理性の観点で見て正しいのかどうか」をテーマにお届けしました。

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(文/鈴木貴博

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