いい店を探すときに頼る「禿げ白髪の法則」 恩師きっかけで知った老舗の蕎麦店

【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】経験で培った「いい店」を見つけるコツとは…。

2023/03/19 05:00


 

■「いい蕎麦屋」に置かれていないもの

そば

若い頃から、蕎麦屋で飲むのが好きだった。生意気だった頃は、いい蕎麦屋を見分けるコツとして「出前の自転車やバイクが置かれていない店」という、薄弱な根拠の決まりを課していたこともあったが、今ではそんなことはどうでもよくなった。いわゆる「蕎麦前」でつまみを注文してその店推奨の日本酒をいただく。たまには趣向で蕎麦焼酎の蕎麦湯わりをいただいて蕎麦屋で飲んでいるのだという実感を欲しがる貧乏性を発揮することもあるが。

しゃもじに乗せた蕎麦味噌を炙っていただいたり、蕎麦屋独特のいい出汁を使った出汁巻玉子を突いたり。辛味大根おろしが添えてあると、尻が3ミリ浮かびそうに感じる。はじかみや紅しょうがもいい。醤油の代わりに、蕎麦つゆや「かえし」をかけるのも嬉しい。

蕎麦屋のおつまみは、天ぷらやおかめ、きつね、たぬき、玉子とじ、鴨なんば、にしん蕎麦などに使われる食材を組み合わせるものが多いので、辛味大根おろし、鴨焼き、出汁巻玉子などに、こちらもざるそばに使われる海苔や山葵が添えられることもある。たいていどこにでもあるメニューは「板わさ」だ。かまぼこと山葵がない蕎麦屋は相当にめずらしい。


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■師匠きっかけで知った老舗の蕎麦店

大阪のお初天神の境内から東に抜ける細い路地を出ると、老舗の蕎麦店「瓢亭」がある。俳人の楠本憲吉さんや、人間国宝だった落語家の桂米朝師匠が通われた名店だ。蕎麦屋の、関西弁で言うところの「あて」で一番好きなのは、この店の「山芋の海苔巻き」だ。海苔でとろろと、さりげなくおろしわさびを海苔で巻いてあるシンプルな物で、それを御手しょうに醤油のように出される蕎麦つゆにつけて風味を楽しむ。海苔のパリッとした食感と、中のとろろの対比、香りが面白い。一皿に3つ乗っているのだが、おかわりをすることが多い。

この店、自力で探したわけではない。40年以上前に抽象画家の元永定正さん、津高和一さんと3人で訪れたのが最初だった。私は大学2年で、金魚の糞のようにお二人の巨匠について行って御相伴に与ったことをきっかけに通い続けている。その時、店内で飲み食いしている「禿げ白髪」の多さに驚いたのが、今の私の「癖」の原因である。そして、「蕎麦屋で飲んでもいい」と言うことを教えてくれた店でもある。もちろん、出前のバイクは置かれていない。


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■著者プロフィール

松尾貴史

Sirabeeでは、俳優、エッセイストの松尾貴史さんの連載コラム【松尾貴史「酒場のよもやま話 酔眼自在」】を公開しています。ワインなどのお酒に詳しい松尾さんが「酒場のあれこれ」について独自の視点で触れていく連載です。今回は松尾さんが店を選ぶ際のコツついて掲載しました。

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(文/松尾貴史

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