いきなり届いた「電子契約書」の危険性 有識者と弁護士が語るリスクとは

身に覚えのない電子契約書が複数人に届く事案が発生。そうなった際の対応を有識者と弁護士に聞いてみた。

2023/11/11 05:30

ハッカー・ハッキング・サイバー犯罪

「オレオレ詐欺」に代表される、特殊詐欺事件が一般に周知されたいまでも、その数が収まる気配が無い。電話だけでなく電子メールやSNSを使用した特殊詐欺も数多く存在するが、最近は“電子契約”という、一般的にまだ聞きなれないものを使った特殊詐欺が起きる可能性があるそうだ。

その可能性を示唆するのは、情報通信システム及び情報通信セキュリティの設計、構築、運用を行うセキュアラミル株式会社代表・藤原能成氏。藤原氏いわく、SNSで情報開示請求を行い取得したメールアドレスに示談を要求する電子契約メールが多数配信されており、藤原氏自身もその対象となっているのだという。

実際に藤原氏が語る電子契約の落とし穴とはいったい何なのか? 電子契約についての説明も含め、インタビューを行った。



 

■電子契約が普及した理由

従来、契約は対面で行う事が基本でした。それぞれの条件を提示し、それを契約書という形で書面にしたあとで紙へ印刷し、押印・割印(複数の契約書にまたがって判子を押す方法)をして双方で保管、
割印をする事で、片方の契約書の偽造を防ぐ…という色々な細かな作法という対抗策が存在していました。しかし対面で行う契約は煩雑であったり、遠方間の契約を行う場合は作成し郵送して押印して送り返す…と次第に面倒になっていた状況が過去には数多く存在したのです。

そのような中で折しも世界中でコロナウイルスによる厄災が起こったため、対面での契約が難しくなりました。そして、同時にリモートワーク等の普及により、契約も書面ではなくすべてネット上で契約が行える電子契約という手法が開発され、一気に普及していきます。


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■電子契約とは

電子契約とは、とても簡潔に言ってしまえば “紙が存在しない契約” です。電子契約は紙が存在せず、すべて電子データのみでやりとりする事になります。一番大きなメリットは先ほども述べたように距離に関係なく、電子データを使用するため全てネット上で契約が行える事です。

当然、郵送費・印刷費等が必要なくなるため、コスト的なメリットは計り知れません。他にも製本し郵送し確認し返送する、という時間的な面でも有利です。つまりとても迅速な契約が可能になる、これが一番のメリットではないでしょうか。当たり前ですが、“『言った・言わない』を防ぐ”ための、紙の契約書と同様の要件は満たします。


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■電子契約の種類

電子契約の種類は大きく分けて『ローカル型』、『リモート(クラウド)型』 2 つのタイプが存在します。ローカル型は、署名する人がICカード等の物理的なものを使い、ネットを利用せずに署名する方法です。今まで対面で紙を使ってやっていた契約をパソコン等を用いてデジタルで行う手法ですね。

もう一つのリモート(クラウド)型、これが近年普及が進んでいるものです。ネットを通じて署名する事ができるので、対面や物理的なもの(判子やペン)を必要とせず、簡単に署名して契約する事ができます。

リモート署名の中でも、その利便性ゆえ、凄まじい早さで普及するようになったのがクラウド型署名です。契約サイトにアクセスして名前を入力する、これだけで契約を結ぶ事ができます。『GMOサイン』や『Adobe Sign』など、インターネットを使う人ならだれでも知っているような企業が独自でサービスを展開していたり、汎用的に色々な個人・法人で使える汎用型クラウド電子契約サイトもサービスを展開しています。


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■電子契約の罠

先程『クラウド型署名は、簡単に署名して契約する事ができます』と書きました。これはその通りで、サイトにアクセスして自分の名前や個人情報を書いて、送信ボタンを押す。ネットにさえ繋がっていればこれだけで契約ができるので、とても簡単かつ楽に契約ができます。

しかし、そこに落とし穴があるのです。例えばスマートフォンの契約を考えても、店舗で契約する際には店員さんが細かく説明してくれます。しかし、実際に契約書を見ると細かな文字が沢山書いてあり、そこに記載されている注意事項を隅々までしっかり読んでいる方は、どれだけいるでしょうか?

先程も述べたように、店舗では店員さんが注意事項を教えてくれます。そして、その説明を聞いて納得したら紙の契約書に署名します。しかしクラウド型の電子署名は誰も注意点を教えてくれません。例えばメールで「この電子署名に個人情報を入力して送信してください」と連絡が来たとします。

メールアドレスには大手企業の名前がありました。そのクラウド型の電子契約は信用できる企業、または信頼できる人から送られたものと自信を持って言えますか? メールアドレスはいくらでも偽装する事ができますから、誰かが大手企業の名前を騙って、あなたにメールを送信したかもしれません。

最近は技術革新が進み、ある程度はスパムメールと判定してくれるようになりました。しかし、それらをすり抜けてくるスパムメールは沢山存在します。大手通販サイトや通信会社の名前を使った悪質な第三者が詐欺目的のメールを送った事件のニュースは数多く見受けられますし、企業のサイトがハッキングされて個人情報を抜かれ、メールが送られる可能性もあり、疑いだしてしまえばキリがありません。

電子契約というものは気軽にできてしまう反面、誰もその契約書の中身の正当性を担保してくれません。どんなに理不尽な事が書かれていようと、あなたの意思で署名してしまったら契約は成立してしまうのです。仮に、『販売価格は未定ですが、あとで自由に金額を請求する事ができる』と書かれていたとしても、あなたがあなた自身の手で個人情報を入力してしまったら、契約は成立してしまうのです。これが、電子契約・電子署名の落とし穴です。

そしてそれを悪用する人達も存在します。最近の例ですと、取得した多数のメールアドレスに対してメールを送り付け、金銭を要求する悪質なものもありました。それも署名するサイト自身は有名企業の名前なので、安全だと思う人も中にはいるでしょう。それが罠なのです。


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■電子契約をする際には

電子契約をする際には、必ず隅々まで契約書を読んでください。とても小さな文字で書かれていたとしても『読んでいませんでした』は通用しません。もし企業や個人から突然、そのような身に覚えの無い契約書が届いたら、必ずサポート等に連絡し、事実かどうか確認するようにしましょう。大手企業の名前を騙っているだけかもしれません。

電子契約を悪用する人達は、理不尽な契約を結ばせたり個人情報を取得する目的で、電子契約サイトを利用します。それらに対抗する為には安易な署名はしない事、そして事実確認を怠らない事です。一昔前には「連帯保証人には絶対に判子を押してはいけない」とよく言われました。これは連帯保証人になると、契約者が借金をして逃亡した場合、あなたがそれを全て賠償する責任を負わされるからです。

判子を押すという事は、それだけの責任を負うという事でした。今はそれがネットに変わりました。簡単に判子を押してはいけないように、簡単にネットで署名してはいけません。誰も責任を取ってはくれません。全ての責任を負う覚悟を持って、電子契約に望むよう心がけてください。


■まずは事実確認を

藤原氏の話を聞く限り、不特定多数に電子契約が送られている場合は安易に契約ページに遷移したりせず、まずは事実確認をしないと大変なことになる可能性があるかもしれない。

また、実際に消費者トラブル等に詳しい齋藤 健博先生に話を伺うと、以下のコメントを得ることができたので、併せて確認してほしい。


■斎藤弁護士のコメント

法的にも対面義務がさだめられていない契約が多いこともあり、世の中に非対面契約は浸透しつつあります。電子契約はのちに紙が届くことはなく、”電子契約が当事者の意思によって締結された事”についても 契約書に記載すれば容易なのです。

しかし、契約内容は複雑化している傾向にあり、「後で話と違った」となるケースも増えています。法律用語の説明はむしろ弁護士にしかできないにもかかわらず、法律用語がたくさんある契約書が一方的に送られてくる状態です。

藤原氏のコメントと同様に、弁護士も危機感を覚えている電子契約。身に覚えがない契約書がメールで届いたら、まずは弁護士や警察など、然るべき機関に相談したほうがよさそうだ。

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(取材・文/Sirabee 編集部・熊田熊男

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