『飛田新地フィールドワーク』の問題点とは 「興味本位」以上に厄介

大阪『飛田新地』で人権団体が行なったフィールドワークが炎上しています。抗議の声をあげたひとり、SWASHメンバーの要友紀子さんに聞きました。

2016/12/02 06:00

 

■貧困ポルノに対する行動規範

セックスワーカーもよく素材として使われることが多い貧困問題の取り上げ方として、「貧困ポルノ」の問題があります。

貧困ポルノとは、アンダークラスの人々の悲惨でかわいそうなステレオタイプな物語・ネガティブなイメージによって、人々の同情やカタルシスを誘い、差別の助長や搾取を伴う作品やメディア、行為のこと。

貧困ポルノにおけるセックスワーカーの役割は、貧困問題の深刻さを際立たせるため、スティグマ(負の烙印)の強い、できる限り絶望的な存在として登場させて、説得力を持たせる。あるいは人々の注目を得るものがよく見られます。

こうした問題について、対策が講じられる動きもあります。CONCORDは2006年に、「イメージとメッセージに関する行為規範」を作成し、ステレオタイプで差別的なイメージの回避、関係者らの感情と尊厳、コミュニケーションの尊重などを訴え、2012年にはDochasがこの行動規範の具体的な方法と実用例を開発しています。

日本で貧困ポルノに対する警鐘で記憶に新しいのは、アンダークラスの人々のルポで有名な鈴木大介さんが今年6月に発表した記事

貧困問題の取り上げ方、取材のやり方、受け手側の受容のされ方やリテラシーの限界問題を取り上げ、じつに有意義で重要な告発をしています。

この記事も見ても、メディアも人々も自分が受け入れやすい当事者だけを選んで注目し、自らの差別心を顧みないどころか、むしろ補強する作用が働く危険があることがわかります。


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■アート×歓楽街×性産業

最後に、人文・社会・政治系の人々だけでなく、アーティストや映画監督の方にも、セックスワーカーの問題に詳しくなって頂きたい理由があります。

写真家や芸術家、映画監督の中には、セックスワークの世界に引き寄せられる方が少なくないようです。

それは、人々が顔をしかめたり眉をひそめるような世界だからなのかわかりませんが、そのような世界を一緒に守ってもらえないでしょうか。少なくとも、そのような性の世界が潰されることには加担しないで頂きたいのです。

アーティストや作り手は、どんな弊害を招こうが自分が表現したいこと、世界観の表現がすべてで第一だと思っていらっしゃる方も一定数いるようです。そのせいか、近年も写真家やアーティストによるセックスワーカーを脅かすアートと開き直りが連発しました。

しかし、セックスワーカーへの脅かしを容認する社会は、アートの表現の自由への脅かしを容認する社会でもあります。

互いにその存在や権利は守られなければならない存在で、脅かされてはならないと思います。どちらが弾圧にあっても、両者ともが成立しにくくなるでしょう。

例えば、黄金町バザールのように、アートによる街づくりという名のもとに、移住労働のセックスワーカーたちがたくさん立ち退きにあい、そこでは(作品においても)性を排除した形でのアートが推進されています。

やがては無機的などこにでもある、健全な家族のための街となるための浄化の途中として、アートが利用され性の排除が行われているのです。


■映画でも見られるステレオタイプ

アンダークラスの若者たちや移住労働者のリアルを描き、人々に資本主義社会の矛盾を突き付け、若い労働者たちからも定評のある空族の新作映画でさえ、残念ながらセックスワーカーたちをステレオタイプでネガティブに描いてしまう限界が見られました。

制作者は、「性産業をなくし健全化を図りたい街の婦人団体や、青少年健全育成に資することは意図していない。主題は別のところにある」と考えているかもしれません。しかし…

・日本各地の歓楽街がこれだけ浄化され、衰退させられることを受容するこの社会の空気の形成は、どこからやってくるのか?


・アンダークラスの若者の居場所はなぜなくなり、若者にとって息苦しい世界がどのようにして出来上がっているのか?


・夜の世界の人々のステレオタイプでネガティブなイメージが氾濫し、夜の世界の人々がエンパワメントされるような文化や活動がないこととの関連は?


映画をつくる方々は、このような問いを考えてみてもいいのではないでしょうか。

セックスワーカーを題材にするクリエイターの方々は、ぜひ機会があれば、海外の何ヶ国かで毎年行われているセックスワーカーフィルム&アートフェスティバルで、画一的ではない数多くの作品に触れてみてください。

そして、こうした問題に詳しくなりたい、支援に役立つ勉強をしたいという方のために、SWASHでは2017年春頃に「セックスワーカー支援者研修(仮)」を予定しています。

(寄稿/SWASH代表・要友紀子

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