検察ファシズムが実現しかねない検察庁法改正案 元検察官・郷原信郎弁護士に聞く

SNS上で大きな話題となっている検察庁法改正案。その問題点について郷原信郎弁護士は…。

2020/05/12 12:00


 

■「組織の性格上想定されていない」

Q.詳しいことを教えていただけますか。

郷原:少なくとも検察官の職務については、常に上司が自ら引き取って処理したり、他の検察官に割り替えたりできるという意味で「属人的」なものではありません。特定の職務が特定の検察官個人の能力・識見に依存するということは、もともと予定されていないのです。


黒川弘務東京高検検事長の「閣議決定による定年延長」は、定年後の「勤務延長」を規定する現行の国家公務員法81条の3の「職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」という規定に基づいて行われたものですが、検察庁という組織の性格上には、そのようなことが生じることは、もともと想定されていません。


それを検察庁法の改正によって法律の明文で認めようとするのであれば、検察庁法が規定する検察官や検察庁の在り方自体について議論を行うのが当然であり、国会でそれを行うのであれば、「内閣委員会」ではなく、法務大臣が出席し、法務省の事務方が関わる「法務委員会」で審議すべきです。


これに対して、いわゆるネトウヨと呼ばれる安倍首相支持者の人たちが、ネット上で必死の抵抗を試みています。


元財務官僚の高橋洋一氏は、この法案は、国家公務員一般の定年延長に関する国公法の改正案であり、それに伴って検察官の定年延長を制度化するのは当然であるかのように言って、法案を正当化しようと言う旨のツイートをしています。


しかし、高橋氏が言う、「検察官だけが定年延長できないのは不当な差別」というのは、検察官の職務の実態を全く知らない的はずれの意見です。


そもそも、検察官には法曹資格が必要とされており、退職しても能力があれば、弁護士として仕事をすることが可能。そして、それに加えて、法務省では従来から退官後の処遇を行ってきました。


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■公証人など定年後のポストも

Q.検察官を辞めても仕事が用意されている?

郷原:検察庁法上、現在の検察官の定年は、検事総長が65歳、それ以外は63歳ですが、実際には、検事正以下の一般の検察官の場合は、60歳前後でいわゆる「肩叩き」が行われ、それに従って退官すると、「公証人」のポストが与えられます。公証人の収入は、勤務する公証人役場の所在地によりますが、概ね2,000万円程度の年収になります。


そして、認証官である最高検の次長検事、高検の検事長の職を務めた場合には、63歳の定年近くまで勤務して退官し、この場合は公証人のポストが与えられることはありませんが、証券取引等監視委員会委員長など、過去に検事長経験者が就任することが慣例化しているポストもあるし、検事長経験者は、弁護士となった場合、大企業の社外役員などに就任する場合が多い。


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■「全くあり得ないやり方」

Q.検察官は退官後も厚遇されていると言うことですね。

郷原:検察官の退職後の処遇については、上述のような相当な処遇が行われているのであり、一般の公務員のように、定年後、年金受給までの生活に困ることは、まずありません。


だからこそ、今回、国家公務員法改正での定年延長制度の導入に併せて、検察官の定年延長を根本的に変えてしまうのであれば、従来行われてきた検察官の退職後の処遇の在り方も根本的に見直すことになる。


それを、違法な定年延長を行って批判を受けたからといって拙速に行い、しかも、その審議に法務大臣も法務省の事務方も関わらないなどということは、全くあり得ないやり方です。


検察官の退職後の処遇の現状からしても、検察官に定年延長を導入する必要性は全くない。それを、強引に導入しようとしているのは、安倍政権が、違法な黒川検事長定年延長を閣議決定して検事総長人事に介入しようとしたことを正当化するため、事後的に国会の意思に反していないことを示そうとしているとしか思えません。


それは、どんな不当・違法なことも、国会の多数の力さえあれば、あらゆるものが正当化できるという、安倍政権の傲慢さそのものです。このような法改正は、絶対に認めてはなりません。

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(取材・文/France10・及川健二

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